こんにちは、毛利先生



「降谷に渡す物ある?」
「此れをお願いします」


ポアロに行く前の日課になりつつあるが、何故か課長まで託すようになったのだ。二日前は、課長にハムサンドのテイクアウトを頼まれたっけ。何でも、ポアロの名物らしい。


「蒼井さん!自分、近くに用があるので送ります」
「え?あ、うん。じゃあ、お願い」


最近、部下達もそうだが課長や降谷の様子が変だ。ポアロに行く時も、こうやって誰かが車を出してくれて、帰りは降谷が送ってくれる。まるで私に何か起こるのを防ごうとしてるみたい。


「ねえ、佐田」
「はい」
「何かあるの?」
「何かとは?」
「…否、いいわ」


聞いたところで答える筈も無いが、聞いてみた。表情一つ変えずに聞き返す佐田は流石だ。読み取らせてくれない。


「佐田、有り難う」
「いえ」


ポアロの直ぐ近くで降り、佐田に礼を言う。いつも停まっているはずの降谷の車が無いという事は、買い出しにでも行ってるんだろう。

ガラス越しに覗いた店内は、女子で溢れていて中に入るのを躊躇う。大方、降谷狙いだろう。意を決して店内へ入ると、思った通り梓さんだけだった。


「藍さん、良いところに!」
「え?」
「助けて下さい!あの子達、私が安室さんに言い寄ってるとか、色目使ってるとか、否定しても全然ダメで」
「はあ」
「私が彼女です!って、あの子達に言ってやって下さいよ!」
「え!?」


本当に困っているんだろう、眉を下げ今にも泣きそうな顔で訴えてくる。少し離れていてもヒソヒソ聞こえる話し声にどうしようか考えていると、買い物袋を持った降谷が戻って来て、一気に騒がしくなる。


「モテモテだね」
「おや、嫉妬ですか」
「まさか」
「安室さーん!今日こそ教えてよー」
「僕には心に決めた人が居ますから」
「またそれー。本当は居ないんでしょ!」
「居ますよ、此処に」
「えっ!?」


おいおい。降谷くんよ、そんなにフラットに爆弾投下しなくても。ほら、見て、店内にいる君のファンは固まっているよ。


「それって、梓さん?」
「な、!違う違う!私じゃなくて、この人です!」
「彼女が心に決めた人ですよ」


穴が開くんじゃないかってくらい見られたが、暫くしてこの騒動は収まり、お客は私だけになった。


「ねえ、厄介な事ってあの子達?」
「まあ、それもありますが違いますよ」
「じゃあ、何?」
「時が来たら話します」
「いつもそう」
「安室さんって、藍さんにも敬語なんですね」
「今は、店員とお客様ですから」


梓さんにはそう言ったが、敬語をなくすと安室ではなく降谷になってしまうからなんだろうな。洗い物をしている降谷の背中を見ながら、珈琲を飲んでいるとテーブルを拭いていた梓さんがこっそりやって来た。


「安室さん、ああ言ってますけど、藍さんが来る時はずっと入り口見てるんですよ」
「…へえ」
「愛ですね〜」
「伝わってませんか?僕の愛」
「聞こえてたの?」
「丁度終わりましたから」
「あ、安室さん!後は私がやりますから、もう上がって下さい」
「お言葉に甘えて」


今日も当然のように、私を送ると言い一緒に店を出ると毛利探偵親子に出くわした。


「安室じゃねえか」
「こんにちは、毛利先生。丁度良かった、先生に紹介します。僕の恋人、栗原藍さんです」
「こ、恋人ー!?こ、この、麗しい女性が、お前の恋人?!」
「いつも安室がお世話になっております」
「お世話だなんて、安室くんはとても優秀で助かってますよ」
「勿体ないお言葉有難うございます」
「もう!お父さん!邪魔しちゃ悪いから、行くよ!」


また会いましょう、と名刺を渡され毛利探偵は去っていく。渡された名刺は金色で、覗き込んだ降谷も苦笑いしていた。