貴方には及びませんが



私を押した犯人を近くで取り押さえたと風見から連絡が入る。後は任せた、と降谷が指示し私達はこれ以上騒動になるのを避ける為、庁舎に戻った。


「説明してくれるよね?」
「…分かった」


空いてる仮眠室に入ると、降谷は事の経緯を話してくれた。事の発端は、私立探偵をしている安室透に旦那の浮気調査を依頼してきた妻らしい。


「浮気調査が発端?!」
「ああ」


降谷が旦那の浮気を調査したが、浮気の証拠は見つからなかった。その代わり、旦那はある女性に恋心を抱いている可能性があり、もう少し調査する筈だった。


「だが、調査報告が待てず、彼女は旦那を問い詰めた」
「それで?」
「隠し撮りした写真を妻に見せて、自白した。この女性が好きだ、って」
「…ねえ、それって」
「藍。キミだ」
「はい?」
「写真を見て驚いた。其処で、写真に写る女性は自分の恋人だと告げたよ」
「また勝手に」
「写真はその場で消去し、藍の事は諦めるよう言った」


それがいけなかったのかもしれない、と降谷は困ったように頭を掻いた。旦那は諦めてくれたものの、安室という恋人がいるのに自分の旦那を誑かしたと妻が逆上した。


「それで、お前に危害が及ぶ可能性が高く、護衛してた」
「成る程。皆で守ってくれていたのね、私を」
「結果的に守りきれなかったがな」
「守ってくれたじゃない。安室の恋人としてポアロに来させてたのも、何処かで見てる奥さんに見せ付ける為だったんでしょ?」
「何でもお見通しだな」
「貴方には及びませんが」
「悪かった。もっと上手くやっていれば、害は無かったのに」
「降谷が悪い訳じゃ無いでしょ」
「俺があと少し遅かったら…」
「降谷、」
「遅かったら…、死ぬ所だったんだぞ!」
「…零!聞いて。私は死なない。例の組織を壊滅させるんでしょ?!こんな事で動揺してどうするの!」
「…そうだな」


動揺するな、というのは無理な話しかもしれない。私もそうだが、同期を亡くした。況してや、彼に至っては目の前で失ったのだ。嫌でも過ぎったと思う。酷な事を言うが、本当に"こんな事"なのだ。


「名前…、やっと呼んだな」
「昔は呼んでたでしょ」
「今は呼んでくれないもんな」
「呼んで欲しいの?」
「ああ」
「私は降谷の恋人じゃないんだけどな」
「安室透は降谷零だぞ?」
「はいはい」


職場で下の名前で呼び合う方がおかしいだろう。グチグチと何か言っているが、無視して仮眠室を出る。直ぐに追いかけてきて、隣に並ぶ。


「そのまま寝てれば良かったのに」
「寝られるか」
「皆にも御礼言わないと」


警備企画課の扉を開けると、私の顔を見て部下達は安堵した表情を浮かべている。無事で何よりです、と集まってくる部下達に有り難うと伝えると皆嬉しそうに笑っていた。