頼んだぞ、先生



例の騒動後、降谷は困った事に心配性になってしまった。公安の若きエースがどうしたよ。


「あのバカ、どう思う?」
「…降谷さんの事ですか」
「あの件以来、過保護差が増しましたよね」
「過保護ってもんじゃないよ」
「それだけ心配なんだと思いますよ」
「私達だって心配してるのにね」


佐田と風見と話していると、降谷から着信が。名前を確認して、もう一度上着のポケットにしまう。暫く鳴っていたが切ってくれたようで、静かになる。


「出ないんですか?」
「どうせ、所在確認よ」
「風見です。え、あ、はい。今目の前に」
「風見に掛けやがった」
「降谷さんからです」


渋々、電話を受け取り出ると、物凄く不機嫌な降谷の声が聞こえる。


『何で出ない』
「上着脱いでて気付かなかった」
『今から迎えに行く』
「何で?」
『毛利探偵に食事に誘われた。藍もって』
「……分かった」


切れた電話ん風見に渡し、降谷が来るまで残りの仕事を終わらせようと手にしていた報告書へ再度目を向けた。報告書には、"沖矢昴"の文字。沖矢とは、降谷が赤井秀一ではないかと疑っている人物だ。


「…この報告書って誰が?」
「あ、自分です。降谷さんから、同じ物を蒼井さんに渡すようにと」
「そう」


沖矢昴。東都大学大学院工学部博士課程在籍。27歳。常にハイネックを着用。潜伏先は不明だが、米花町に出没。引き続き調査中。


「ふーん。この人が、沖矢昴ね」
「蒼井くん、ちょっといいか」
「はい!」


課長に呼ばれ、警察庁に向かっている降谷に念のためメールを入れておき、課長の元へ向かう。


「すみません、降谷に連絡を」
「否、私こそ急にすまない。此れを」
「…帝丹高校?」
「短期間だが、其処に通う彼女の身辺を調査してくれ」
「身辺を調査するなら潜入しなくても」
「頼んだぞ、先生」
「面白がってません?」
「降谷には伝えておけよ」
「あ、はい」


安室透は恋人なんだからな、と課長はニヤつきながら"恋人"の部分を強調して言った。絶対に面白がってるよ、この人。八神課長は私と降谷をゼロにと推薦してくれた人だが、当時から私達をからかい続けているのだ。


「ごめん、今行く」


とっくに着いている降谷にそう伝え、駐車場へ向かう。停めてある降谷の車に乗れば、遅いと不機嫌な顔だ。


「課長に呼ばれてたの」
「何だって?」
「来週から、帝丹高校への潜入を命じられました」
「ほぉー、藍が先生か」
「それより、あの沖矢昴って人の報告書見たわよ」
「どう思う?」
「彼に直接会ってみないと何とも言えないけど…何かあるとは思う」
「何らかのトリックを使い、赤井は沖矢に変装してる。だが、そのトリックも奴の協力者もまだ」
「足りないピースを探すのが私達。集めたピースを繋ぎ合わせて、パズルを完成させるのが降谷、でしょう?」
「藍…」
「貴方をサポートする為に、八神さんは私をこの任務に引き入れたのよ」
「……」
「焦りこそ最大のトラップよ」
「…だな」


例の組織への潜入は、降谷と警視庁の公安の彼の二人で行われていた。潜入して数年、彼は、ノックだと組織にバレて殉職したのだ。詳細は聞いてないが、彼の死に赤井が関わっているらしく、降谷は執拗に赤井を追っているのだ。


「私も、沖矢の事調べてみる」
「頼んだ」
「…それで?毛利探偵と食事するのにドレスコードが必要なの?」
「今日は特別だよ。何でも、鈴木財閥のパーティーがあるらしくてね」
「何で家と逆方向に向かってるわけ?」
「秘密」


三十路前の男が自然にウインクするなんて、この人普段からやってるな。何処に向かってるか分からず、外を眺めていた。