第七話「リリアン女学園新聞部」

 

私、リリアン女学園高等部二年生にして、伝統ある新聞部の部長を務めるこの築山三奈子は、今、最高にご機嫌だった。
なぜかって? それはもう、聞くまでもないことでしょう。このところ、私たち新聞部が誇りと責任を持って発行している週刊新聞、「リリアンかわら版」が、学園内で空前の大好評を博しているからよ、

「すばらしいわぁ…」

手にしたB4サイズの、まだインクの匂いも新しいその紙をひらりと右手に持ち、左手はまるで名画の貴婦人のように軽く腰に当てて、私は優雅に立ったまま、うっとりとした視線をその美しい紙面に落とす。私の手にしているそれこそは、最終チェックのために用意された、栄えある次号の試し刷りなのだけれど、惜しげもなく施されたオールカラーの鮮やかな印刷は、その仕上がり、見栄えともに抜群というほかない。

「いや、見栄えだけじゃないわ。そこに綴られた記事の内容も、そしてそれを紡ぎ出す私のこの文章も、完璧なまでの美しさ…」

そう、話題というものは生もの、提供する時間が勝負なのよ──というのが、この私、築山三奈子の揺るぎない信条だった。読者に今まさに求められている珠玉の情報を、今この瞬間に提供せずして、どうして新聞などと言えようか。

その点において、我が「リリアンかわら版」は、胸を張って、そこのところを寸分の隙もなく、完璧に押さえていると断言できる。
そりゃあね、過去には、どうしても紙面を埋めるべきビッグな話題がない時には、担当教師の意外な趣味だとか、校庭の片隅でひっそりと咲いた名も知らぬ花の話題だとかで、どうにかこうにかお茶を濁したことも、
まあ、一度や二度はあったような気もするけれど、今は断じて違う。
この私は、リリアンの生徒諸君、すなわち我が愛すべき読者たちの嗜好というものを、完全に、そして寸分違わず把握しているのだから。

今、リリアンで最も旬な話題といえば、何と言ってもあの、山百合会の麗しき幹部たちの華麗なる日常、これに尽きる。
彼女たちの動向を追いかけてさえいれば、読者たちは自ずと熱狂的についてくる。まるで、甘い蜜に誘われる蝶のようにね。

まさに、機は熟した、といった感じだった。この私、築山三奈子は、過去の気の弱い先輩たちとは違って、たとえ相手が生徒会の役員であろうとも、一切臆することなく切り込んで取材できるだけの、類稀なる度胸と、そしてそれを読者の心に響かせるだけの卓越した文章力をも持ち合わせているのだし、そもそも、現在の山百合会の幹部たちにしても、これほどまでに粒ぞろいで、それぞれに強烈な個性を放つ魅力的な人物たちが一堂に会したことなど、このリリアン女学園の長い歴史を紐解いてみても、過去にはそうそうなかったのではないだろうか。
私は、部室の古びた棚の上から、誇らしげに先週号の「リリアンかわら版」を一部取り出して、その堂々たる一面の見出しに、満足げに目を細めた。


『独占スクープインタビュー!黄薔薇のつぼみ(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)、その胸に秘めたる妹への熱き想いを、今、大いに語る』


ほら、この通り。この私にかかれば、こんなにもすばらしい仕事ができてしまうのだ。これはもう、神に愛され、文才を魅入られたとしか喩ようがない、この圧倒的なまでの才能。思わず、恍惚のため息すらもれてしまうというものだわ。


そうそう──あの時の取材も、実にスリリングだったわね。


黄薔薇のつぼみ、支倉令さんの話題は、まさに手に汗握るスリリングな展開だった。

剣道部の不動のエースにして、そのボーイッシュな魅力から「ミスター・リリアン」の名を欲しいままにしている、あのクールな支倉令さんが、まさか高等部二年生になって早々に、あんなにも可愛らしい妹を迎えることになるなんて、一体誰が予想できただろう。しかも、そのお相手というのが、数多くいる新入生の中でも「最も妹にしたい下級生ナンバー1」と、まことしやかに囁やかれていた、あの病弱で儚げな美少女、島津由乃さんだったのだから!

あの記事を掲載した「リリアンかわら版」は、発行と同時に学園中で瞬く間に売り切れ、大好評を博した。ああ、何という素晴らしい達成感!! この快感があるから、新聞作りはやめられないのよね!


「お姉さま、いつまでその紙に見とれているおつもりですか。いい加減にしてくださいまし」


せっかくいい気分で、自分の才能と輝かしい功績に陶酔していたというのに、私の実の妹にして、新聞部唯一の後輩でもある山口真美の、やけに冷静で、どこか棘のある声が、無情にも私を現実の世界へと引き戻す。
何だかよくわからないけれど、自分としてはもっと崇高で、きらびやかな世界に身をゆだねていたつもりだったのに、はっと我に返って辺りを見回してみると、そこは殺風景な机代わりの大きな折り畳みテーブルが一つと、少々時代遅れの古くなったパソコンが一台、それに私が今年度の予算委員会で獅子奮迅(の活躍をして、涙ながらに訴えてやっと購入にこぎつけた最新型のカラープリンタが置かれているだけの、いつもの薄暗い新聞部の部室だった。
真美の他には、同じく二年生の部員が二人ほどいたが、「ああ、またいつもの部長の発作が始まった」とでもいうように、特に気にも留めず、無言で各自の仕事に黙々と熱中している。まったく、もう少し敬意というものをだな…。


「真美。……あなたねえ、もう少し言い方というものが…」
「その記事をチェックしてくださらないと、明日までの印刷に間に合いませんよ。そうなってしまったら、お姉さまの輝かしい口癖である『話題は生もの時間が勝負』が、残念ながら実践できなくなってしまいますけれど、よろしいのですか?」
「――っ、わ、わかったわよ! やればいいんでしょう、やれば!」


私は、内心で盛大に舌打ちをしつつも、仕方なく部長専用席に着いた。自分から熱心に勧誘して妹に選んだとはいえ、何てまあ、いちいちきつい物言いをする娘なんだろうと、本日何度目かのため息をまたもやつかされる。
まったく、言っていることがいちいち正論だから、ちっとも可愛くないのだ、この子は。
部活動を引退なさった三年のお姉さまは、「三奈子が一年生の時と、そっくりだわ〜」なんて、のんきなことをおっしゃっていたけれど、少なくともこの私に関して言えば、一年生の頃は、もう少しましだったような気がするのだけれど。ええ、きっとそうよ。


「…あの島津由乃さんとまではいかなくてもいいから」

せめて、あの可憐な由乃さんの半分でもいい。もう少しだけ素直で、物腰のやさしい、しおらしい娘になってはもらえないものだろうか──。

そんな、叶わぬであろう願いを胸に抱きながら。
私は、先週号の紙面に大きく掲載された、支倉令さんと島津由乃さんの仲睦まじいツーショット写真を、無意識のうちに指で軽く弾いた。

そして、新たなため息と共に、目の前の試し刷りの記事へと改めて視線を送る。するとそこには、ここ最近の山百合会特集とは打って変わって、久方ぶりに山百合会のメンバー以外の、しかしそれに勝るとも劣らない輝きを放つ人物の大きな写真が掲載されていた。

鎖骨のあたりまで優雅に伸びた、手入れの行き届いた美しいウェーブヘアに、どこか物憂げな、それでいて見る者を惹きつけてやまない不思議な光を宿した大きな瞳。そして、まるで上質な陶器のように真っ白な肌に、非の打ちどころのない抜群のスタイル。
その、ひときわ目を引く美貌の持ち主の周囲には、まるで彼女を囲んで守るかのように、それぞれに華やかな魅力を持つ数人の美少女たちが、楽しげに微笑んでいる。

このタイトルは『リリアンに舞い降りた新入生の美しき妖精たち──禁断の花園に迫る!』とかでどうだろうか。いや、ちょっと過激すぎるかしら。


「うーん、なんとも華やかな写真だこと…見栄えは決して悪くないわね、これは」

それにしても、本当に綺麗な顔立ちをしている。山百合会の幹部たちにしたって、もちろん顔立ちの整っている麗しい人たちは多いけれど、この写真の中央にいる人物は、それとはまた少し違った種類の、まるで本物のモデルか、あるいは銀幕の女優のような、どこか近寄りがたいほどの、完成された圧倒的な美人だった。


「北原史香、さん。…ふむ、また今年も、とんでもない大物が入学してきたじゃないの」


今年、このリリアン女学園では数少ない、高等部からの外部進学者として華々しく入学してきた、噂の新入生。

まことしやかに流れている噂によれば、旧華族の由緒正しい家柄の娘だとか、あるいは、あの日本経済界にその名を轟かせる北原ホールディングスのお嬢さまだとか、そんな、まるで映画のヒロインのような話ばかりだけれど、実際のところ、その真相はどうなんだろうか。
まあ、あの並外れた美貌と、どこか浮世離れした雰囲気から察するに、それなりに名の知れた、良いおうちのお嬢さんであることには、まず間違いないのだろうけれど…。


「ま、そのあたりの詳しい身上調査は、また追々…何か大きな記事にできそうなタイミングでもあれば、じっくりと仕入れればいい情報、ということにしておきましょうかね」


そう一人ごちて、私は記事全体にざっと目を通して、いくつかの小さな修正点を赤ペンで書き込み、そして真美へとその試し刷りを手渡した。


「これでいいわ。誤字脱字も、まあ、見当たらないようだし。あとはよろしく頼んだわよ、我が妹」
「はい、お姉さま。お任せください」


真美は、確かな手つきでそれを受け取った。
ふう、これで一仕事終わり、というわけね。

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