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マーモンのお陰でわたし達は何とか復讐者の目を掻い潜ることが出来たが、本人の言う通りあれはもう二度と通用しないであろう。戦闘時間が終了し、マーモンはアルコバレーノ会議があると言ってホテルから再び姿を消した。
「まずは先に治療をしましょう」
わたしは医療班から渡されていたセットでスクアーロさんとザンザスさんの小さな傷に手当をしていく。
「いらねぇ」
「……駄目ですよ」
ザンザスさんはぎろりとわたしを睨んだが、また明日になれば戦闘が始まるのだ。こんな事で怯えていてはいけない。わたしは無理やり彼の傷の手当をした。
「なまえがどんどん逞しくなっていくわね……」
「末恐ろしい餓鬼だぜ……」
そんな事を言うスクアーロさんの手当も勿論行った。とりあえず明日の零時までは戦闘は始まらない予定である。わたしは一旦、汗を流そうとシャワールームへと向かおうとドアノブに手を掛けたが、窓から気配を感じ振り返た。
「一人で何しに来たカス」
ザンザスさんがそう呟くと目の前に現れたのはハイパーモードの弟、綱吉であった。
「う"ぉ"ぉい!てめぇどこから!」
「……ザンザス。力を貸してくれ」
綱吉の顔は何かを決意した様な凛とした表情であった。
翌日、わたしは学校を休んだ。綱吉が声を掛けたメンバーはどうやらヴァリアー達だけでは無いらしく、自宅へ戻ると周りには見覚えのある人達が群がっていた。
「やぁなまえチャン」
すぐ様わたしに気付いた白蘭が声をかけるが、前を歩いていたザンザスさんがわたしの前へと出る。
「ザンザスくんも元気だった?あれ、もしかして機嫌悪い?」
白蘭はザンザスさんの表情を見ると、ふふっと笑ってから、「全く過保護なんだから」と呟く。わたしは彼の背中しか見えていないが、一体どんな表情をしているのだろう。
「へぇーなまえの家ってこんな感じなんだ」
ぐるりと周りを見渡したベルが呟く。
「なまえの部屋って上?」
「見せないわよ」
「ケチ」
リビングルームへと彼等を案内すると、中には既にディーノさんや古里くん達の姿が見えた。
そして綱吉が声を掛けた人間が全て集まると、復讐者を倒す為の作戦会議が始まった。
代理戦争四日目の午後三時。バトラーウォッチを付けていないわたしはルッスーリアやベル達と共に公園に来ていた。
「バトル開始一分前です。今回の制限時間は九十分です」
いよいよ戦闘が始まる。
今回綱吉は、今まで戦ったことのある頼れる全ての人間を招集した。その時の彼の姿はダメツナなんて呼ばれているとは思えない程、凛としていてとても格好良かった。
メカニック担当のヴェルデさんや入江正一くん、スパナさんが作った囮人形は上手く復讐者を騙すことが出来た様で、彼等は一人ずつ散らばってここまで来た。
「オレ達もビックピノとスモールギアの下へ飛ぶぞ、バミューダ。奴等の各個撃破を阻止し全滅させる」
「わざわざ出向かなくてもお前の相手はここにいるぞ、イェーガー」
その言葉と共に姿を現したのは、ザンザスさんにスクアーロさん、雲雀くん、六道くん、ディーノさん、白蘭であった。
彼等がイェーガーに着いた理由は主に彼等の協調性の無さが関係してきている。綱吉が一番強いと言ったイェーガーを誰もが相手にしたいと言うことを聞かなったのだ。その為、機動力のある綱吉とバジルくん、古里くんは遊撃隊として各個撃破の為に高速で移動をしている。
「んじゃ僕からやらせてもらうよ。ジャンケンで勝ったんだ」
「貴様らがどんなつもりだろうとオレは全員を一度に相手にする。そのつもりで気を抜かぬことだ」
「ふうん。そんな余裕はすぐに無くしてあげるよ」
「どうだろうな」
刹那、白蘭の懐から匣兵器である白龍がイェーガーに向かって飛びかかる。だが彼は綱吉が言っていた短距離瞬間移動を使い、白龍を真っ二つに切り倒した。
「今の動き!」
「ショートワープか!」
イェーガーがそのまま白蘭に向かって飛んだ。敵であったとはいえ、わたしにあんなことを言った彼は今では同じ目的を持った仲間である。この戦いに参加している全ての人が傷付く所は見たくない。彼が傷つかない事を願った。
だがイェーガーは白蘭では無く、再び瞬間移動をするとザンザスさんの背後に飛び、彼の右腕を切り落とした。
「ザンザスさん!!!!」
「ボス!!」
誰もに衝撃が走る。わたし達は声を荒らげ、体温が一気に下がった。
スクアーロさんが背後から剣を薙ぎ払うが、イェーガーは再び瞬間移動をする。咄嗟に反応しスクアーロさんが剣を構えるが、イェーガーの指先は彼の剣を突き破り、そして彼の体を貫いた。わたしは声を上げることも出来ずに目の前の光景をただただ見つめる事しか出来ない。まさかそんな、これは幻覚なのではないか。
「正真正銘の血だな。今度こそ幻覚を殺った訳じゃ無さそうだ」
「……おい、カスザメ。起きろ」
ザンザスさんが声を掛けてもスクアーロさんから返事は無い。ザンザスさんは静かに古傷を浮かび上がらせた。
「天と地程の力の差は理解出来たろう。あと何人死ぬんだろうね」
「隊長!!ボス!!」
マーモンが叫ぶが、ザンザスさんは咄嗟に炎で右腕の傷を焼く。
「るせぇっ!オレの事はほっとけ!!」
一番大好きな人達が圧倒的力で殺されそうになっている。この戦いには勝たなくてはならないと分かってはいるが、わたしはもう見ているのも辛かった。
「イェーガーには一対一で戦うという考えが無い。ならばこちらも全員で対処するしか無いでしょう。問題は死角となる背後へのショートワープ」
再びイェーガーが瞬間移動をすると、六道くんはヴェルデの装置で作り出した鋼鉄のカバーを味方全員に施した。
「くだらぬ小細工を」
一見瞬間移動を攻略出来たかと思ったが、瞬く間に彼の腕だけが瞬間移動をしており、白蘭の胸に刺さっていた。
「どうなってんの?これ……」
「白蘭!!手だけワープ出来るのか!」
「ぐふっ……こりゃ駄目そうだ……。握手だイェーガーくん……。ほらザンザスくん、今だよ」
その言葉に瞬時に銃に光を集めたザンザスさんはイェーガーに向かって炎を放った。
「でかしたドカス!!」
だがそれすらも躱してしまうイェーガーはザンザスさんの目の前に現れると、彼の両足を切り払った。
「ぐあ!!」
鈍い音が鳴り響いたかと思うと両足から血が吹き出す。わたしは咄嗟にその場から走り出そうとしてしまい、後ろからルッスーリアに抱え込まれた。
「ザンザスさん!!」
「駄目よなまえ!!」
リング争奪戦の時に感じた失う恐怖が再びわたしを襲った。今度の敵は身内でも知り合いでもない。本気で殺しにかかっている敵だ。彼の傍に行きたくて、叫びもがいてもルッスーリアはわたしを離そうとしない。
ザンザスさんがその場に倒れ込むのと同時に白蘭も地に伏してしまった。