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「ザンザスさん!!スクアーロさん!!」「早く病院に連れていくわよ!」
「隊長の心臓は一先ず幻覚で補っている。二人とも死んでいない」
ヴァリアーは慌ただしく彼等を病院へと運ぶ手筈を整えた。ミルフィオーレのγさん達と共に全ての怪我人を病院に運ぶ。ここは綱吉達に任せ、代表としてわたしは彼等と共に病院へ向かうことになった。
一先ず彼等の治療は終えたが、全員未だ目を覚ます気配は無い。わたしはザンザスさんの部屋で彼の手を握りしめたまま、目覚めるのを待っていた。
ふと彼の指に力が入り、瞼が小さく震えるとゆっくりと開き、あのパイロープガーネットに光が入る。わたしは彼が目覚めた瞬間、今までの緊張が全て解けた様にポロポロと涙が溢れていた。
「ザンザスさん!」
「何泣いてんだドカス」
ザンザスさんは少しだけ怪訝そうにわたしを見た。彼を信じていたが、もしずっと目が覚めなかったらと思うと不安で仕方が無かった。
「……体調はどうですか?」
「問題ねぇ。……どうなった」
わたしはザンザスさんに全てが終わった事を話した。綱吉は再び同じ悲劇を繰り返さない様にダルボさんに色々お願いをしているらしい。きっとあの人達なら今まで繰り返されてきた悲劇を終わらせる事が出来るはずだろう。
「そうか」
「わたし、スクアーロさんの様子も見てきます」
「なまえ」
呼び止められ、振り返る。彼のあの深紅の瞳がわたしを捉えた。
「まだ行くな」
その言葉にわたしは急激に体温が上がった気がした。無言で彼を見つめるが、彼はもう何も言うつもりは無いらしい。黙ったまま頷くと、わたしは再び椅子に戻り、自分の指先を見つめた。今、彼の目を見たら火傷をしてしまいそうだった。
最初は恥ずかしい気持ちもあったが、やはり彼の隣は居心地が良くて、暫くしてからちらりと彼を盗み見ると彼は瞳を閉じて眠っている様にも見えた。そしてそのままお互い何かを話す訳でも無く時間を過ごした。ただお互いの存在を確かめる様に指先だけは繋がっていた。
同じ病院に入院しているみんなの元へわたしは頻繁に足を運んでいた。
「白蘭」
「わぁ、なまえチャン来てくれたんだ」
彼が目覚めてから部屋に訪れたのは初めてである。わたしは花瓶の水を変える為に花を一旦抜いた。
「それなまえチャンがやってくれてたの?」
「今日だけよ」
「嘘つきだね。本当はユニから聞いてるんだ」
だったら初めからわたしに聞かないでもらいたいものだと白蘭を見つめる。彼はからからと笑った。
「ごめんね」
「ありがとうじゃなくて?」
「勿論ありがとうもだけど、なまえチャンに酷いこと言っちゃったし」
「いいよ。わたしも間違っていなかったと思うから」
真っ直ぐに見つめると彼は驚いた様な表情をした。
「でももう違うって言えるわ」
「あーあ、何か僕余計なことしたかも」
「逆に教えてくれてありがとう。お礼に友達になってあげてもいいわよ」
「うわー、随分上からだね。でもそれに乗ってあげる」
そう言って白蘭もわたしも笑った。彼はもしかしたらわたしが初めて苦手だと思った人かも知れない。二度も殺されそうになり恨みもあったが、こんな風に誰かに怒りを向けたりした事なんてここ最近は無かったと思うと、この不思議な関係は何だか心地よく感じられた。