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わたしは黒曜ヘルシーランドを訪れていた。ここに六道くんは居るらしい。綱吉から聞いて久々に此処を訪れたが、昔と違って建物は寂れ、人がいる様子も無くガランとしていた。門には鍵が掛かっていたが、錆びていて役目を果たしていない。正面から中へ入り階段を登っていく。一体何処にいるのだろうか。
確か三階に映画館があるはずだと記憶を頼りに進んでいく。上に登れば登る程、建物の痛みは少なく見えた。
映画館の扉が少しだけ開いている。中から人の気配がしたので、わたしはそこに手をかけ扉を引いた。
「んあ?!誰だびょん!」
「犬、落ち着いて」
「クフフ、よく此処まで来ましたね」
そこには未来で見た姿より若い六道くん達が居た。彼はソファから降り、わたしの方へと近付いた。
「お久しぶりです、なまえ」
六道くんはわたしの頬に触れ、視線を合わせる。
「わたし、貴方が六道くんだとは知らなくて……。少し前まで昔の記憶も失っていたの」
「事情は分かっていますよ。あの日会った時に貴方が僕を見ても何も反応しなかった時点で疑ってはいましたから」
遠くにいる女性がわたしを見て大きな声を上げる。彼女は六道くんの仲間だろうか。
「ちょっとこの女誰?」
「昔研究所で会ったことがあるんだ」
柿本くんが眼鏡を上げながらそれに答える。彼も、城島くんも未来の姿は目にした事があったが、この時代で会うのは初めてであった。
「お久しぶりです。柿本くん、城島くん」
「まさかお前があの沢田綱吉の姉として引き取られてるなんて知らなかったびょん!」
「人生って何があるか分からないね」
そう、わたし達は皆マフィアに良い思いを抱いていない筈であった。それが六道くんは綱吉の守護者となり、わたしは綱吉の姉として再びマフィアに関わり、こうして出会った。本当に人生は何があるか分からない。
「まあ、君が自ら進んであの男の傍に居る事には関心しませんがね……。彼はマフィアの闇そのものの様な男ですよ」
「……それでもわたしは彼に救われたから」
そういえば、と、六道くんは後ろを振り返り、何かを探す様な素振りを見せた。
「おや?何処に行ったのか」
「どうかしたの?」
「フランが先程まで居た筈なんですが」
キョロキョロと辺りを見渡すがあのエメラルドグリーンの髪色は見えない。代わりに、幕の後ろから赤い何かが見えた。
「フラン、こっちに来なさい」
「……誰ですか、その人」
現れたのは林檎の被り物をしたフランであった。未来ではカエルの被り物をしていたが、まさかこの時代では林檎とは……。フランはわたしを見ても誰だか分かっていない様子である。六道くんの方を振り返ると彼は「チーズの角に頭をぶつけて記憶が無いらしいんです」と呆れた様に言った。
「初めまして。沢田なまえです」
「フランです」
未来の姿より随分と幼い彼はわたしの目を見てから、ぺこりとお辞儀をした。その礼儀正しい姿にわたしは内心感動しながらも返す。傍で見ていた六道くんは驚いた様な声を上げた。
「ほぅ……随分なまえの前ではいい子なんですねぇ」
「この人、いい人そうなんで」
未来で出会ったフランより控えめであるのでわたしは驚いていたが、どうやら六道くん達の前では相変わらずらしい。フランスに行った時にはヴァリアー達に会ったと聞いてわたしは驚いた。
「ヴァリアーの皆にも会ったの?」
「虫歯菌なら会いましたー」
「虫歯菌……」
やっぱり彼は小さくても変わっていなさそうであった。