62

 代理戦争二日目。わたしはソファで寛いでいる所、あの喧しいアラーム音が鳴り響いた。

「来た!」

「よし、お前ら行くぞ」

「みんな行ってらっしゃい。気をつけてね」

 だが出向こうとした瞬間、エレベーターが到着する音がし、扉が開くとそこには雲雀くんと風さんが現れた。

「う"ぉ"ぉい。これから出向こうって時に……」

「ししっ、カモがネギ背負って来やがった」

「これはこれで嬉しいな。ここはまるでサバンナだ」

 それぞれ笑みを零しながら武器を構えた。

「なまえ、下がってろ」

 ザンザスさんにも知らせるべきであろう。スクアーロさんの言葉にわたしは頷き、奥の和室へと向かった。

「ザンザスさん」

 彼は和室の奥で寝そべっていた。傍に駆け寄り、彼の肩に触れる。薄く目を開いた彼は「何だ」と掠れた声で呟いた。雲雀くん達が来たことを伝えようとしたが、その時後ろからマーモンさんも和室にやって来た。
 彼は上体を起こすと気だるそうに「何か食い物ねーのか」と呟く。

「え……?ルッスーリアが作ったおしるこなら鍋に……」

 マーモンがキッチンからおしるこを持ってきたが、ザンザスさんが一口で頬張りお餅を喉に詰まらせてしまう。慌ててマーモンが外まで水を取りに行こうとするが、「待てん!」と叫んだザンザスさんはそのまま彼を追うように和室から飛び出した。わたしも慌てて彼の後ろに着いていく。

「ボス!雲雀と風が来ているんだ!」

 水を受け渡したマーモンがザンザスさんに告げる。彼はそのまま戦闘が始まっている一番広い部屋へと向かった。
 部屋には雲雀くんと、彼に良く似た男性──あれは風さんだろうか。二人の前にはスクアーロさんとベルの背中が見えた。ルッスーリアとレヴィさんはどうやら風さんにやられてしまった様子である。ベルも腕時計は壊されてしまったみたいだ。

「黙ってろカスザメ」

 ザンザスさんは部屋に入るなり鍋に残っていたお餅をスクアーロさんに投げ付けた。

「あちっ!餅かぁ?!」

「では始めましょうか」

 風さんの言葉に室内に殺気が満ちる。

「なまえ、下がってろ」

 わたしがザンザスさんから離れた瞬間、一斉に戦闘は始まった。四人の動きはとても素早く、目で追うのがやっとである。
 ザンザスさんが攻撃を放ち、ホテルの一角である窓ガラスが全て吹き飛ぶ。爆風を避けると、そこには風さんのみが攻撃を受けていた。

「君、口ほどじゃないね。大丈夫なの?」

 呆れた様に雲雀くんは言ったが、「次はミクロン単位で動けそうです」と構えを取った。
 再び彼等の姿が消える。風さんは凄まじい強さでスクアーロさんとザンザスさんを圧倒していく。だがその瞬間、頭の中に聞きなれない声がしたかと思うと、風さんの体から血飛沫が上がった。

「これで分かったろ?武術より幻術の方が優れている」

「そうでした……。幻術とは脳に直接作用し、相手より優位に立つ技術。今放った奥義は脳に特定の“縛り”を作り、それが破られたら肉体にダメージとなって返ってくる。バイパー・ミラージュ・R」

「ああ、そうさ。特別に今回は脳への縛りを教えてやるよ。勝利を疑った者は自爆する」

 そこにはアルコバレーノウォッチにだけ付いている“懐かしいプレゼント”によって呪解された、本来の姿であるマーモンがいた。



 風さんの呪解時間が終了し、雲雀くんがザンザスさんの攻撃から逃れるのが困難な状況に追い込まれると、戦場に雲雀くんの助っ人としてディーノさんが現れた。
 ディーノさんと風さんは、雲雀くん一人でザンザスさんの本気に叶わないと彼に説得をするが、彼は聞く耳を持たない。

「よし、分かった、やってみろ。オレが手っ取り早くザンザスを本気にしてやる」

 その言葉の意味に気付いたわたしとスクアーロさんはディーノさん止めようとするが、彼は咳払いを一つすると「ザンザスが超強いってのは、オレの思い過ごしかもな!ツナに負けたしな!」と大声で言った。

「ンゲッ」

「アホォ!」

 ヴァリアー側が顔を真っ青にすると、ザンザスさんの全身には古傷が浮かび上がる。ヴァリアーリングに光が集まると憤怒の炎を纏ったベスターが現れた。

「カンビオ・フォルマ!」

 わたしの武器と同様、ベスターも彼の武器と同調した。眩い光が彼の銃に集まり、それを放つ。咄嗟に雲雀くんがロールを盾にするが一瞬で全てを風化させてしまう。だが彼はこれで終わらない。再び銃にエネルギーを圧縮させ大口径で放とうと銃を構えた。

「避ける場所がねぇぞぉ!」

「飛び降りるが勝ちだぜ」

 ルッスーリアとレヴィさんを抱えたベルと共にわたしも下へと飛び降りる。背後で爆発音がしたかと思うと、ホテルの最上階は全て風化されてしまっていた。

「すんげっ、最上階全部ぶっ飛ばしちまってるし」

「雲雀め、散ったかぁ!」

「案外ザンザスのボスウォッチが壊されているかも知れねーぜ」

 彼等と共に再びホテルの最上階へと登る。そこには雲雀くんのボスウォッチへの攻撃を右手で防いだであろうザンザスさんと、片膝を着いて睨む雲雀くんの姿があった。
 刹那、あのアラーム音が鳴る。だが納得のいかない雲雀くんは「僕は戦いたい時に戦う」と自らボスウォッチを壊してしまった。それに思う所があったのかザンザスさんもボスウォッチを一瞥すると、右手に炎を灯した。

「だは!同感!……こんなもの」

 再び顔を真っ青にしたヴァリアー全員で彼の元へと走る。

「駄目!ザンザスさん!」

「時計は壊さないで!マーモンの一生のお願いなのよ!」

「う"ぉ"ぉい!跳ね馬!さっさと雲雀をつまみだせぇ!」

 ディーノさんが雲雀さんを連れてホテルを出た所で、わたし達は何とか彼を止めることに成功したのだった。
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