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「え……お爺様……?」

 わたしの声は小さく、隣にいたベルとレヴィさんにしか聞こえていない様だった。

「九代目……?!」

「どうなってるんだ……?何故モスカから……?」

「ちっ、モスカの構造、前に一度だけ見たことがある。……九代目はゴーラ・モスカの動力源にされていたみたいだな……」

「ど、どうして?!」

「……どうしてじゃねぇだろ!!てめぇが九代目を手にかけたんだぞ」

 これが目的か、と漸く理解した。詳しい事情は分からないが、こうすることによって後々ザンザスさんにとって物ごとが有利に働くのだろう。

「誰だ?じじぃを容赦なくぶん殴ったのは」

「誰だぁ?モスカごとじじぃを真っ二つに焼き切っていたのはよう」

「オレが……九代目を……」

 綱吉が自らのせいでお爺様を傷付けてしまったことに戦慄していると、お爺様の小さな声が響いた。

「すまない……。こうなったのは全て私の弱さ故。私の弱さがザンザスを永い眠りから目覚めさせてしまった……」

「眠りとはどういうことだ?ザンザスは揺りかごの後、ファミリーを抜けボンゴレの厳重な監視下に置かれたはずだぞ」

「ゆりかご……?」

「八年前に起きた、ボンゴレ史上最大のクーデターのことだ」

 徐々に明かされていく揺りかごの背景と、九代目が綱吉をボンゴレ十代目に選んだ理由。しかしそれは途中で九代目の意識が途絶え有耶無耶のまま話が終わってしまった。

「よくも九代目を!!」

「?!」

「九代目へのこの卑劣な仕打ちは実子であるザンザスへの、そして崇高なるボンゴレの精神に対する挑戦と受け取った!」

「な?!」

「しらばっくれんな!九代目の胸の焼き傷が動かぬ証拠だ。ボス殺しの前にはリング争奪戦など無意味!オレはボスである我が父の為、そしてボンゴレの未来の為に。

貴様を殺し、仇を討つ!!!」

 そうだったのか、これの為にわざわざ回りくどい事をしたのか。詳しい事情は分からないが、ザンザスさんはお爺様の実子であるらしい。ザンザスさんが過去に残した負の遺産を精算する為にも今回の件は必要な事だったのだろう。彼をここまでさせるのに一体どんな過去があったのだろうか。わたしには計り知れないが、どうやら彼を突き動かしているのは強い怒りの様。

「ザンザス、そのリングは……返してもらう。お前に九代目の跡は継がせない!!」

「よく言ったぞ、ツナ」

「……ボンゴレの歴史に刻んでやる。ザンザスに楯突いた愚かなチビが一人いたとな」

「一人じゃないぜ!!」

「十代目の意志は、オレ達の意志だ!!」

 綱吉はザンザスがボンゴレファミリーのボスに就任することを拒んだ。そしてリング争奪戦は弔い合戦へと姿を変えることになる。綱吉の言葉に彼の仲間である獄寺くんや山本くんを含めた守護者達がそれぞれの武器を取り出しザンザスさんに立ち向かう。隣にいたベルの腕が此方に延び、ぐい と手を引かれた。

「おっと、お前ら此奴の事忘れねーよな?」

「な!なまえ?!卑怯だぞ!!」

 そう、わたしは元々人質として此処にいる。漸く来て欲しくなかった役目が来てしまった様だ。ベルの腕が首に回る。彼は自慢のナイフをすらりと構えるとわたしの首筋にぴたりと当てた。恐怖に心臓がこれでもかという程激しく音を立てている。

「くそっ!どうしたら……!」

「お待ちください!」

 校庭内にチェルベッロと呼ばれる女性の声が響いた。

「九代目の弔い合戦は我々が仕切ります」

「なに?!」

「我々にはボンゴレリングの行方を見届ける義務があります」

「何を言っていやがる!ザンザスの犬が」

「口を慎んでください。我々は九代目の勅命を受けています。我々の認識なくしてはリングの移動は認められません」

「よくも抜け抜けと!その死炎印は九代目に無理矢理押させたものだろう!」

 綱吉側はどうやら納得のいかない様子だったが、その死炎印が施された勅命というものはどうやらボンゴレファミリーに置いて絶対的であるらしい。チェルベッロは大空のリング戦としてこの戦いを位置付ける事にした様だ。

「それでは明晩、並中に皆さんお集まり下さい」

「あーらら、モドキに執行猶予あげちゃったよ」

 そう言いベルはわたしから腕を離した。まだ死ぬ事は無いみたいだが、出来れば二度とあんな経験はしたくない。
 わたしがベルから解放されたのを見届けた綱吉は何処かホッとした表情を浮かべていた。
 ザンザスさんの手からオレンジ色が広がる。眩しくて目も開けられない程だったが、いつの間にか私は再びベルに抱えられ並中から遠ざかっていった。今度は所謂お姫様抱っこをされて。







「消えた……!あの女達もなまえも!!!」

「くそっ、取り返せなかった……!」

 ナイフ野郎に脅された瞬間の十代目のお姉様の表情は忘れられそうに無い。恐怖に染まる色。今回までなまえさんはマフィアには関わらず生きてきた筈だ。何も知らぬままリング争奪戦に巻き込まれ、不安なのは間違い無いだろうし、まして人質として連れ去られているのだ。計り知れない恐怖であろう。何としてでも取り返さなければならないのに、みすみすヴァリアーの連中を逃してしまった。

「遅かったか……!」

「跳ね馬!」

「お前ら!九代目と怪我人を!」

 雲雀は珍しく大人しくしていた様だ。

「この状況があの草食動物の強さを引き出しているのなら、まだ手は出せないよ」

 明日は最後の戦い、大空のリング戦。勝つのは絶対十代目であると確信しているが、不安なく戦える為にも何としてでもなまえさんを取り戻さねば。
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