15
ホテルに着いてからやっと理解したかの様にわたしの体は震えが止まらずにいた。帰る途中、思わずベルの服を握りしめてしまったが彼は何も言わなかった。翌日、わたしは誰とも会いたくなくて部屋から出れずにいた。彼等に情が多少湧いているのは事実だが、昨晩殺されそうになったあの瞬間を忘れる事は出来ないらしく身体の中を色んな感情がぐちゃぐちゃに入り混じっていた。
ザンザスさんはお爺様の実子であることを昨晩知った。という事はわたしと彼は遠い親戚関係にあるという事だろうか。もしかしたら幼少期の頃何処かで会ったことがあるのかも知れない、彼の瞳を見た時心の靄が晴れる気がしたのはこの為だろうかと考え込んでいると扉の前から気配を感じた。
ノックも無しに部屋に入ってきたのはなんとザンザスさんだった。なんの理由も無しにわざわざ此処に足を運ぶとは到底思えなかったので、何事かと彼の顔を見上げる。彼が一歩近付くと無意識にわたしは一歩後ずさっていた。
「恐ろしいか」
「……………。」
怖くないと言えば嘘になるが、嫌いにはどうしてもなれかった。何か答えなくては、そう思っても言葉は浮かんでこず口篭ってしまう。以前は心地よくも感じたザンザスさんとの空間も、今は居心地悪く感じた。
「明日も来い」
それは暗に人質としての役目を告げられる言葉であった。ザンザスさんからすればわたしの本来の役目であるのだが、急に悲しく感じたのはやはり情が湧いてしまったからだろうか。何も言わないわたしを特に咎めるつもりも無いのか、ザンザスさんはそのまま踵を返す。何故だかわからないが急に見限られた様な気持ちになり思わず声を掛けて引き止めてしまった。
「何だ」
「あの……少しだけ怖いです。だけど、嫌いにはなれないんです。……可笑しいですか?」
引き止めたところでわたしの心は定まっていないものだから、先程考えた事をそのままザンザスさんに伝える羽目になってしまった。言い終わってから急に恥ずかしくなってきたけれど、言った言葉を取り消す事は出来ない。いたたまれずに下を向いてしまう。暫く静寂に包まれると呆れも嫌悪も含まない声でぽつりと彼は呟いた。
「さあな。家光にでも聞いてみろ」
「え……?それって……」
わたしのこと、殺すつもりは無いの?
聞く間も無く彼はこの部屋から出ていってしまった。じゃあわたしは何の為に此処に……?
あの後ザンザスさんに会うことは無かった。
深夜、再び訪れた並中学校。マーモンさんが生きていた事に内心喜んだが、彼がいるのは小さな檻の中。あまり喜びすぎるのも良くないかと思い、一言声を掛けるだけで終わった。
「揃いましたね。沢田なまえさん、貴方は此方にどうぞ」
どうやらわたしは今回別の場所に行かなければならない様だ。チェルベッロが仕切る今回の大空戦ではどうやら守護者全員が戦う事になるらしい。わたしは体育館の裏に設置された赤外線センサーに囲まれている観覧スペースへと移動した。
「それと此方を」
渡されたのはモニター付きのリストバンドだった。どうやら戦闘をこのモニターで見ることが出来るらしい。そして目の前にある体育館の壁にも大型ディスプレイが設置されている様で此方でも同様に観覧する事が出来るらしい。
モニターを確認してみるとヴァリアーや綱吉達が写っていた。その中にルッスーリアさんが居る事を把握するとわたしは嬉しくて少しだけ泣きそうになった。
どうやら守護者達は各々リング争奪戦で戦ったフィールドに移動する様だ。横を見てみるとさっきモニター越しで見えたルッスーリアさんがベッドに縛りつけられた状態のまま置いていかれるのが見える。
「ルッスーリアさん……!」
「なまえちゃん!」
「生きていたんですね……。本当に良かった」
「貴方が心配するなんて、可笑しいじゃないの……うっ!!」
突然ルッスーリアさんも笹川くんも呻き声をあげると、笹川くんはそのまま倒れ込んでしまった。
「え?!二人とも大丈夫?!」
どうやら守護者全員にデスヒーターと呼ばれる毒が注入されたらしい。守護者全員の命がボスの手に委ねられる戦い、それが大空戦らしいのだが怪我人もいる中こんなことまでする必要なんてあるのだろうか……!チェルベッロのやり方にどうしても不満を覚えた。
守護者の付けているリストバンドにはリングを差し込む凹みがあるらしい。そこにリングを差し込むと解毒剤が投与される仕組みの様だ。
「大空戦の勝利条件はただ一つ。ボンゴレリング全てを手に入れることです」
ということは何方かが全て手に入れる迄この戦いは終わらないという事になる。毒も投与されている中、七つ全てを手に入れる迄の長い戦いの中死者が何人も出る場合だってあるのだ。わたしは此処でそれを黙って見る事しか出来ない。なんて歯痒いのだろう。自分の無力さを痛感した。
「わかったよ!急ごう!早くしないと皆が……!」
「では最後に一つだけ。勝負開始後は一切の部外者の外部からの干渉を禁止します。特殊弾も然りです」
「了解したぞ」
刹那、喧しい音と共に綱吉が突然飛ばされた。
「ザンザス様……!まだ!」
「早く始めたいと言ったのは向こうだぜ」
「卑怯だぞ、ザンザス!!」
「特殊弾を撃つ前は不味かったか?」
「舐めんなよ。オレを誰だと思っている」
校舎側から激しくオレンジ色が広がると、炎を額に宿した綱吉がザンザスさんに立ち向かった。