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「それでは大空のリング、ザンザスVS沢田綱吉。バトル開始!!」特殊弾と言われる物が何かは分からないが、それのお陰で綱吉はあんなに機敏に動けるみたいだ。グローブから暖かい炎を放出し、ザンザスさんに殴り掛かるシーンを見た時はまるで別人の様に見える弟にただただ驚いた。
ザンザスさんに蹴り飛ばされる瞬間は複雑な気持ちだった。綱吉とは違う炎をザンザスさんが右手に灯し綱吉に向けると、校舎が一気に風化した。
「憤怒の……炎?」
「死ぬ気の炎は指紋や声紋と同じで一人一人個体によって形や性質が異なるんだ。そしてザンザスは極めて珍しい光球の炎だ。歴代ボンゴレのボスでは唯一武器を持たず、素手で戦った二代目だけがこの炎だったという」
憤怒の炎の特徴は全てを灰に帰す圧倒的な破壊力。そして二代目が激昴した時のみこの炎を見せたことから今では死ぬ気の炎とは別に憤怒の炎というらしい。別で用意されている観覧スペースの声、リボーンの説明も此方に流れてくるのでわたしは状況把握に困ることなくモニターを見ていた。
どうやらあの炎は死ぬ気の炎と言うらしい。何処かで聞いた事がある気がした。
ザンザスさんは素手のみならず、銃も扱うらしい。それも死ぬ気の炎を一点に集中させ攻撃する事の出来る、破壊力と貫通力を兼ね備えた銃を。
銃を巧みに扱い、空中戦を広げるザンザスさんにわたしは目が釘付けになっていた。そしてそれに引けを取らない綱吉にも。これがボンゴレファミリーのマフィアの戦い。
施しと称し、ボンゴレリングを乗せたポールに死ぬ気の炎を撃ち込んだザンザスさん。どうやら嵐と雷のポール──ベルとレヴィさんに届いた様で、彼等は解毒の為にボンゴレリングを嵌め込んだ。
だが綱吉側の雲の守護者である彼──雲雀くんは自力でポールを倒し、解毒した様だった。彼の事は並盛中学校に在学中、図書館で会っていたのでよく知っている。そして彼の強さも。わたしがよく知っているのは一年半程前の彼なので、またこんなに強くなったのかと何処か頼もしい気持ちになる。
どうやら雲雀くんはベルに興味を持った様だった。ベルはどうやら天才と謳われているらしい。それは雲雀くんが興味を持つ訳だ。
本人からナイフとワイヤーを使う事だけは聞いていたが、実際戦う姿を見た事が無かったので、宙に浮かぶナイフに唖然とした。彼はあんな戦い方をするのか。雲雀くんの強さも知っているがベルの強さにも圧倒させられた。
画面が切り替わる。綱吉の死ぬ気の炎がノッキングする様な不規則な動きへと変わると、ザンザスさんの表情は一変した。綱吉は何かを繰り出したい様だが、ザンザスさんに阻まれ集中する事が出来ない。
終わらせるかの様に連射したザンザスさんの攻撃は綱吉に全て当たった。
「綱吉……そんな……」
死ぬ気の炎が消えていく。綱吉は死んでしまったのだろうか、受け止め切れずに涙だけが零れていく。待って、ザンザスさんやめて、お願い。
ここから祈っても彼には届かない。再び右手に炎を宿し一歩近づく。瞬間、綱吉の額から炎が小さく揺らめいた。
「?!」
ぶわりと広がる激しい炎に綱吉は包まれた。どうやらザンザスさんの攻撃を彼の中で中和したらしい。わたしが知らない約一年の間に彼はこんなにも成長していたのか。
だが、死ぬ気の零地点突破とは今回のは違うらしい。どうやらザンザスさんは"本物"を知っている様だった。
「次は上手くやってみせる」
「ブラッド・オブ・ボンゴレ。ツナの超直感が何かを見つけたらしいな」
「零地点突破、改」
容赦ない攻撃が綱吉を襲った。四方八方から嬲る様に銃撃していくザンザスさん。一方的に攻撃され続ける綱吉も、それを嘲笑うかの様に見下すザンザスさんも、もう見るに耐えられなかった。
それでも綱吉は諦めること無くザンザスさんに立ち向かう。ダメツナと呼ばれ、あんなに学校に行くのも毎日嫌がっていた弟があんな目をして立ち向かう姿を今まで一度も見たことは無かった。リボーンのお陰で弟は変わったのだろうか、それとも元から弟の中にあった強さだろうか。
綱吉の強さを見つける度にわたしはどんどん彼から遠のいてる感覚がした。彼に友人が出来始め家に友人を連れてくる様になった時も、リボーンと共に帰るのが遅くなる日々が続いた時も、居候が増えていく時も、ディーノさんが家にやって来た時も、彼がボロボロになって帰ってきた時も、何をしているのかおしえて貰えなかった時も、心の何処かで疎外感を感じていたのはわたししか知らない事だ。でも今回の件で彼が何に巻き込まれ、周りのお陰で成長している事を知った。そして彼の強さも。わたしは彼等のことを何も知らなかった。そして何も知って欲しく無かった事も同時に理解した。巻き込みたくなかったのだろう。それはきっと父もそう思っている筈だ。
でもわたしは知ってしまった。彼等を、マフィアを、踏み込んでは行けない所を。そしてもっと知りたいと思ってしまった。綱吉達が向かっていく未来を、そしてザンザスさん達を。
「このオレが紛い物の零地点突破如きに。あんなカス如きに……。くそが……くそが!!ド畜生があ!!!」
ぶわりとザンザスさんの顔には古傷が浮かび上がった。