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偶然なのかそうじゃないのか、わたしと父はあの朝から会うことなく、悩んでいた過去の話も聞けずにいた。そして綱吉もあの日から帰りが遅くなり、ボロボロになって帰宅するものだから母が心配していた。
今日は委員会もあり、普段より学校を出るのも遅かったが、先日買いそびれた小説を買うために本屋に寄ると決めていた為、陽は沈み辺りは薄暗くなっていた。母には連絡済みなので急ぐ必要はないが、あの商店街での出来事もあった為、普段より自然と足早になり周りにも気を張っていた。その所為なのか当時の出来事を思い出したからなのか、ふとあの時と同じような空気を感じ、振り返る。しかし誰もおらず、気配すらしない。思い過ごしかと、前を向き直そうとした瞬間、あの銀色が見えた。
「っ?!」
「う"おぉい。鈍くはねぇみたいだが、隙が有り過ぎるぜぇ」
「貴方は……。この間の……」
「お前を連れて来いと頼まれているんでなぁ。大人しく着いてきてもらうぞ」
そう言い、銀色の髪の人は一歩わたしに近づいた。それに思わず一歩下がってしまう。わたしを人質にでもするのだろうか。捕まるべきでは無いと分かってはいるが、彼から逃げられるとは思えなかった。
「連れて行って、わたしを殺しますか」
「そいつはオレが決めることじゃないが、今お前が逃げれば死ぬかもしれねぇな」
今ここでオレに殺されてな、と、ニヤリと笑いながら彼にそう告げられ、思わず眉を寄せるが彼の言っていることは嘘ではないのだろう。だが彼には上司に当たる人がいるようだ。その人に頼まれてここに来たのだろう。
「わかりました」
わたしがそう告げた瞬間からは早かった。まさか担がれるとは思っていなかったが。彼は軽く地を蹴ると瞬く間に夜に溶け込み、家から家へと移っていったのだ。
足音のしない彼は秋の夜を颯爽と駆けた。夜になると肌寒く、冷たい風が頬を撫ぜたが、それよりもこの非現実的な体験に少しだけ興奮した所為か、寒さは感じられなかった。連れ去られているのに呑気なのは自覚済みだが、担いでる彼の腕は苦しくない程度に優しく、移動する際も衝撃が軽減されるように気を配っていることをわかってしまったのだ。
星空はいつもと同じように綺麗だった。
連れてこられた場所はホテルだった。移動中、辺りをずっと見ていたが多分ここは並盛町から少し離れた繁華街にあるホテルで間違いないだろう。エレベーターで上の階まで上がっていき、スーパースイートルームと表記されたドアを強く開ける。担がれたままだというのにそれまでにすれ違った人々は誰一人としてこちらを振り向かなかった。まるで此処にわたしも銀髪の彼も居ないかのように。
スイートルーム着いてからも誰にも会わず、窓の無い部屋に辿り着くと銀髪の彼はゆっくりとわたしを降ろした。
「有難うございます」
感謝を述べたわたしに、銀髪の彼は訝しげな表情を見せた。
「あの……名前を教えて頂けませんか?わたしは沢田なまえと申します」
暫くしてから「S・スクアーロだ」と彼は教えてくれた。スペルビ・スクアーロさん。彼はイタリア人なのだろうか。
荷物を置き、スクアーロさんに別の部屋へと案内される。歩く度に目の前であの綺麗な銀色がきらきらと輝くものだから思わず触れたくなったが、触れてはいけないような気がした。怒られるとかそういう理由ではなく、わたしが簡単に触れていいものでは無いような気がしたのだ。
此処だ、と告げてから、スクアーロさんはノックもせず、つかつかと部屋の中に入っていく。
「う"お"ぉい!連れてきたぜえ、ボス」
スクアーロさんが声をかけた人物は一人がけのソファに座っていた。こちら側を向いていないので表情は分からないが、後ろ姿だけでも威厳に満ちていた。
ボスと呼ばれたその男がちらりとこちらを振り向く。
赤い、深紅の瞳が輝いた。
「……?」
瞬間、靄がかっていた記憶が薄らいだ気がした。気がしただけで、何かを思い出した訳ではないのだが。
ボスと呼ばれたその男はこの僅か寸刻で何かを得られたのか、「もういい」と言ってわたしを先程荷物を置いた部屋に戻した。
後から部屋にやってきたスクアーロさんの話によると、殺される訳ではなさそうだが暫くは此処に留まることになること、そしてこの部屋から無断で出てはいけないということを教えられた。
「携帯電話、持ってんだろう?寄越せ」
素直に携帯電話をスクアーロさんに渡す。他にもスクールバッグやポケット内も確認されたが、他には特に没収される物は無かった。「逃げようとしても直ぐにバレるから辞めておけ」と告げてからスクアーロさんは部屋を出ていった。
◇
「なんだって!ランボが雷のリングを?!なんでだよ!あいつ5歳だぞ!おバカだぞ?!」
「色々事情があるんだ」
「なまえも帰って来ないって母さんが心配してるし、ああ〜どうしてこう重なるんだ!!」
文句を言いながらも近所を走り回っていると、前方から叫び声がした。
「フゥ太!ランボ!イーピン!……ああ……!!危ない!」
フゥ太達の背後に立つ黒づくめの男が凶器らしき物を振りかぶった瞬間、凄まじい音が響き、男が飛んでいく。そこに現れたのはツナの守護者の一人。
「ボンゴレファミリー晴れの守護者にて、コロネロの一番弟子。笹川了平推参!!」
慌てて黒づくめの仲間達が襲いかかるも、次々と別の音が鳴り響き、フゥ太達を囲むようにしてツナの守護者達──獄寺と山本達も駆けつけてランボ達を守ることに成功した。
間に合って良かったとツナはホッとし、ランボ達を連れ帰ろうとするが、リボーンは遠くからやってくる殺気に気付いたようだった。
瞬間、先程とは桁違いに強そうな男が現れ、ツナ達に攻撃しようとするが制止の声が掛けられると男の背後から一瞬で彼の仲間であろう強そうな男たちが現れた。
「うわわわ……。こ、こんなに……!」
「う"お"ぉい!!よくも騙してくれたなぁ、カスども!」
「で……でたーーっ」
山本も獄寺も、スクアーロの登場に驚き睨みつけている。
「雨のリングを持つのはどいつだぁ?」
「オレだ」
スクアーロは山本の存在を確認すると、剣を煌めかせ「3秒でおろしてやる」と叫び、今にも飛び出しそうであった。だが彼の背後から別の男が現れ、スクアーロを押し退ける。
「でたな……。まさかまた奴を見る日が来るとはな、XANXUS」
そこに現れたのは威圧感のある深紅の目をした男だった。ツナはその男と目が合うと途端に恐怖を感じ、身体の力が抜けた。
ザンザスはツナの名前を呟くと、怒りを表すかのように手に炎を灯していく。
「まさかボス、いきなりアレを……!」
「オレ達まで殺す気か?!」
いよいよ不味いとリボーン達が焦るが、肝心のツナは未だ動けない。終わりかと思った瞬間、ツルハシがザンザスの目の前に刺さる。
「待てザンザス、そこまでだ」
そこに現れたのはツナの父、家光だった。家光はザンザス達の行いや、それを容認している九代目に疑問を感じ、異議申し立ての質問状を送ったという。そしてその回答と取れる勅命を受け取った。
ツナは自分の父が門外顧問という実質No.2である立場であること、又ザンザスへのリング継承を拒み自分を推薦したことに大層驚いた。
家光から勅命を受け取り、ザンザス対沢田綱吉のリング継承の勝負をすることが決定した。そして突如彼等の前にチェルベッロと名乗る二人の女性が現れた。
家光でさえ、その女性の存在は知らないという。九代目からの命であり、今回のリング争奪戦の審判を請け負うことになったらしい。
リング争奪戦が始まるのは明晩の十一時。並盛中学校で集まることを伝えたチェルベッロはその場から立ち去った。ヴァリアーの面々も去ろうとするが、一人スクアーロはツナと家光を一瞥する。
「お前等んとこの女はこっちが預かってるぜぇ」
「女……ってなまえのことか?!」
家光は焦った様にスクアーロに睨みを利かせるが、ニヤリと笑ったスクアーロはそのままザンザス達に続いて去っていった。