7

 このスイートルームには沢山の部屋があるみたいだが、ドア越しや隣の部屋からは物音はしなかった。
 わたしがいる部屋にはトイレもシャワールームも備わっているようで、此処だけでも一室が出来上がっていたので大きく移動する必要は無さそうだ。小さな冷蔵庫には飲み物も入っている。
 ベッドに腰掛け、スクアーロさんやボスと呼ばれていた深紅の瞳を持つ彼のことを思い出した。先程感じたあれは何だったのだろう。彼のことは記憶に無いはずなのだが、あの深紅の瞳は知っているような気がした。
 彼もスクアーロさんも、ボンゴレファミリーという会社に所属しているのだろうか。そもそもスクアーロさんが凶器を持っている時点で会社ではなく、犯罪組織の方が可能性は高い。ただ商店街での事件の話と擦り合わせると、どうやら綱吉達もそのボンゴレファミリーというものに所属しているみたいだったし、ディーノさんはボンゴレファミリーの同盟に当たるらしい。まさか綱吉達が犯罪組織に身を投じているとは思えないし、思いたくも無いのだが、それにしても分からないことが多かった。



 あの二人の事や、今後の事、家族の事を考えていたが、考えていても埒が明かないので帰りに購入した小説を読むことにした。二時間程経っただろうか。先程まで感じられなかった人の気配がした、それも多数人。どうやら此方に向かって来ている様だったので、読みかけていた小説を閉じ、扉の方をじっと見つめた。ドアノブが動く。

「どうやら逃げていなかった様だなぁ」

「あら〜!随分可愛らしい子じゃない」

 わたしが逃げると思っているはず無いのにスクアーロさんはわたしを視界に入れるとニヤリと笑う。その後ろからサングラスをかけた少々派手な男性……?がひょっこりと顔を覗かせた。

「私の名はルッスーリアよ。貴方は?」

「沢田なまえです」

「なまえちゃんね。今から皆で食事するところなんだけれど、一緒にどうかしら?」

「……わたしも一緒で良いんですか?」

「勿論よ」

 誘拐犯と被害者が共に食卓を囲む等聞いたことが無いが、これは一体どういう事なのだろうか。思わずスクアーロさんの方に視線を送ると「満足な食事が叶うかどうかは分からねえけどな」と返されたが、益々意味がわからなくなった。だがスクアーロさんも共に食事をする事に異論は無いらしい。此処に来た二人が決めた事では無いのかも知れないし、気配は他にも幾つか感じる。全員と顔合わせ出来るかは分からないが、相手の情報は一つでも多く持っておく方が良いだろうと思い、二人に着いていくことにした。

 いくつかの部屋を抜け、着いた先はわたしがいた部屋よりもかなり広い部屋だった。真ん中には大きな長テーブルが設置されていて、テーブル上には沢山の料理が所狭しと並んでいた。そして既に数名は食事を始めている。

「おそ。もう食べてるよ」

「いつも待ってねえだろぉ"!!」

 頭にティアラを乗せた金色の髪の青年が此方を振り向く。その前の席にはフードを被った小さな赤ん坊がいた。

「そいつが例の子供かい」

 彼はリボーンと同様に精神年齢が高そうに見えた。わたしはフードを被った彼とルッスーリアさんの間に、スクアーロさんはルッスーリアさんの前の席へと座った。
 フードを被っているので不確かだが、座る瞬間此方を見たような気がしたので、お隣失礼します。沢田なまえです と一応名乗っておく。

「礼儀はなっている様だね。僕はマーモン」

「マーモンさん……」

「私が取るわ。なまえちゃん嫌いなもの無い?」

「わざわざすみません。特に無いので大丈夫です」

 ルッスーリアさんが取り分けてくれたプレートを受け取る。動作も見ていたが、目視した限り怪しい動きも無さそうだったし、食べても大丈夫だろうか。

「今ここでお前を殺す気は無い」

 食べるかどうかを悩んでいる事がすぐバレた様で、スクアーロさんが声をかけた。確かにわたしを殺す事が目的ならば既にわたしは此処には居ないはず。それに目の前のプレートに乗っている料理達はとても美味しそうだ。

「いただきます」

 わたしが食事を始めると、隣にいるルッスーリアさんも食事を始めた。そういえば此処に来る前、スクアーロさんに満足に食事が叶うかどうかわからないと言われたが、あれはどういう意味なのだろう?そう思った時だった。目の前をフォークが飛んでいったのである。
 何事かと思い、飛んできた方を見ようと思ったが、今度は別の場所からナイフが飛んできた。
 そこからカトラリーは勿論、料理まで飛んでくるのだから、先程スクアーロさんに言われたのはこういう事かと納得した。此方に飛んでくることは少なかったが、時々避けながら食べ進めていった。

 料理はとても美味しかった。若干肉料理が多いような気もしたが、どれも美味しかったので満足だ。まだプレートの上には料理が残っているが、それよりも気になる事があった。食べ始める前からずっと目の前から視線を感じるのだ。恐る恐る顔を上げて目を合わせてみる。
 向かいに座っている人は食べ進めながらも、不満そうな顔でわたしを見ていた。

「レヴィったらそんなに睨んだらなまえちゃんが食べづらいじゃない」

「お前まだ納得してねぇのか!」

「ボスが許したとはいえ、このガキと共に食事をするなど……」

 どうやら彼はレヴィという名のようだ。ボス──深紅の瞳の彼の事を酷く慕っているのか、彼の許可があったお陰でわたしが此処にいる事を許しているらしい。それよりも今回の食事をあの彼が許可したのが正直不思議に思えた。大抵の人は目の前にいる、レヴィさんという人と同じように、誘拐した人物と共に食事をする事に不快な気持ちを抱くだろう。

「あの……すみませんでした。わたし先程の部屋に戻ります」

「いいのよ、レヴィの事なんて気にしなくて」

「でもわたし、もうすぐ食べ終わるので……、片付け出来なくてすみません。お皿ここにまとめて置いておきますね」

 最後の一口を頬張り「ご馳走様でした」と手を合わせてから、食器を纏めて席を立った。止められなかったのであの部屋まで一人で戻っても大丈夫だろう。







「全く!食事の前に散々話をしたでしょう?」

「それでも嫌なものは嫌だろう!」

「それよりも彼女の方に飛ばないようにしていたとはいえ、良く避けていたね」

  なまえが部屋を出た直後、ルッスーリアとレヴィを筆頭に再び部屋は騒がしくなる。

 スクアーロは正直、ザンザスが何を考えているのか全く分からなかった。
 連れて来いと言われたから連れてきたものの、顔を合わせたのは今回の食事のタイミングと数時間前の数秒だけだ。然も二回とも二人は会話をしていない。
 あの日本のガキの姉だから後々人質にでもするつもりなのだろうが、それにしても共に食事をさせたことについても、部屋の移動についても特に何も言うつもりも無さそうだし、いくらなんでも甘すぎはしないだろうかと考えていた。
 勿論逃げ出そうとしても、此処にいるのは暗殺部隊のヴァリアーだ。そう易々と逃げさせるつもりも無いが。

「つーか明日って昼間は特にやることナシ?」

「ああ、他に任務も入ってねぇからな」

 なにしよっかなー と呟いたベルだが大方やる事なんて分かっている。任務に赴く度、暇さえあれば殺し屋を探して遊んでいるのだから。

 ザンザスが席を立ったので食事はお開きになり、ホテルのウェイトレスに片付けをさせた。
 ルッスーリアがあの女の元へ行くと言うので、あいつに任せて自分は剣の手入れでもするかと自室として充てられた部屋へと戻って行った。
prev / next

top