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 再び現れたベルに大人しく着いて行く、今度は談話室に向かっている様だ。中に入ると突然誰かに抱き締められた。

「なまえ!!」

 とてつもない力で抱き締められ、顔を上げることすら叶わなかった。このまま絞め殺されてしまうのでは無いかと思ったが、ベルに止められ何とかわたしは逃れる事が出来た。

「ごめんなさい、なまえ。貴女が十年前から来たって聞いて、居ても立っても居られずに……」

 先程の盛大なハグは、どうやらルッスーリアさんだったらしい。周りを見渡すと、他にもスクアーロさんやレヴィさん、それと見覚えのないエメラルドグリーンの髪を持つ青年が居た。何故か頭に蛙の様な被り物をしている。

「大丈夫ですよルッスーリアさん。スクアーロさんにレヴィさんもご無事で何よりです」

「そう呼ばれるのは久しいな」

「あの此方の方は……」

 わたしはエメラルドグリーンの髪を持つ彼の方に向き直った。彼はフランさんと言うらしい。マーモンさんが亡くなった後にヴァリアーに入隊したのだとか。そうか、マーモンさんは亡くなってしまったのか……。

「沢田なまえです。宜しくお願いします、フランさん」

「なんかなまえさんに、フランさんって呼ばれるの違和感ありますねー。十年前から来たとはいえ、先輩なんですからなんでもどーぞ」

「今のわたしは何も分からないので、寧ろご指導お願いします」

 そう言いわたしは頭を下げた。もう此処に来て、数時間は経っているが未だ十年前に戻れそうな気配は無い。どんな理由であれ此処に残る為には強くないと死んでしまう為、悠長な事は言っていられない。

「なまえ、実は預かっている物があるのよ」

「え?わたしにですか?」

「ええ。この時代の貴女から」

 驚いた。この時代のわたしは、十年前のわたしが来る事を知っていたのだろうか?ルッスーリアさんから手渡されたのはシルバーのリングが二つと、二つの箱の様なもの、それと手紙だった。
 手紙にはヴァリアーの紋章の赤い封蝋印が押されてした。紋章はルッスーリアさんが教えてくれた。
 わたしは恐る恐るそれを開く。中には二枚の紙が入っており、わたしは一枚目の紙を読んだ。そしてそこに記されていた内容と、四桁の数字に目を見開く。

「あの、綱吉達は……」

「この時代のボンゴレ十代目は射殺され、守護者も散り散り。本部も壊滅状態に陥り、九代目の消息は不明」

 わたしはスクアーロさんからこの時代の事について説明を受けたが、あまりの情報量の多さについて行くのがやっとだった。
 横からわたしの持つ手紙を覗き込んだベルが、手紙の下の部分を指差した。

「なあ1204って何?」

「それは……」

「1204なら、なまえの誕生日じゃないの。12月4日」

「そんなことは分かってるつーの。手紙の最初に二つ意味の数字を持つって書いてあんだろ?」

 そう、1204とは二つの意味を持つ数字だ。一つはルッスーリアさんが言ったように、わたしの誕生日。そしてもう一つはわたしだけしか知らない意味の数字。

「1204、これはわたしがエストラーネオファミリーで実験体にされていた時の被験者番号です」

「!!」

「この手紙を信用してもらう為にわざわざ記したのでしょう」

 わたしにとってこの数字は一言では表せない、複雑な意味を持つ数字だ。最近でこそ記憶を失っていた為、誕生日を家族にお祝いして貰った時に思い出す事も無かったが、記憶を失う前は誕生日が訪れる度にあの嫌な記憶を振り返る日でもあったのだ。

 手紙の内容と、スクアーロさんか教えて頂いたこの時代での出来事を踏まえるとわたしは此処で強くなり、皆さんの力となって戦わねばならないらしい。だがわたしは最近修行を始めたばかりの未熟者だ。そんなわたしがこの世界で皆さんの役に立つこと等出来るのだろうか。わたしは目の前が暗くなった様な気がした。
 するとスクアーロさんが静かにわたしに語り掛けた。

「未来のお前は仲間を助ける為に囮となった」

「!」

「なんとか此処に戻って来れたが、その白蘭って奴に毒を仕込まれてな。傷は直せても毒には勝てなかった」

「そう……だったんですね」

「数年前までお前はヴァリアー隊員では無かったんだが、お前が志願してな。沢田綱吉同様甘い奴だったが、隊員達には結構親しまれていた。お前が助けたその隊員もまだ生きている。……会うか?」

「でもわたしが会った所でわたし自身は何も……」

「お前が助けられた側だったらそう思うか?」

「!……いえ……」

 わたしは未来の自分が助けたという人に会ってみる事にした。
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