36

 わたしはずっと自分が何を大切にし、何の為に闘うのかという事を考えていた。
 わたしの大切なもの。家族、友人、ヴァリアーの皆さん、そしてザンザスさん。直ぐに浮かんだのは周りの人達だった。そしてヴァリアーの皆さんの近くに居たくてわたしは再びマフィア界に足を踏み入れた。
 だが勿論それだけで人殺しが出来る程わたしは出来た人間でも人殺しに対する恐怖が無い訳じゃあ無い。今まで過ごしてきた世界と違っているのは分かっているが、だからと言って無闇に殺したくは無かった。
 ふと、わたしは何故リング争奪戦の時に炎を灯すことが出来たのか考えた。あの時は無我夢中で何も意識等していなかったが、あの時何を考えたか振り返る。
 当時は兎に角ザンザスさんを失ってしまう恐怖に自然と体が動いていた。わたしはザンザスさんに憧れて、昔感じた暖かさをもう一度失いたく無くて傍に居たいと誓った。あの時何かしなければ彼を失うと思っていた。努力し続けた彼を、彼の存在自体を守りたかった。
 ハッとした。わたしはザンザスさんを守りたかったのか。無力だとしてもわたしの底に潜んでいる本音は彼を、彼等を、周りの人達を守りたいと思っているのか。
 それに気付くと指に嵌めていたリングからぶわりと暖かな炎が灯された。

「!!」

 自分が無力な事は重々承知していた。その為守りたいなんて烏滸がましいと、胸の奥にしまい込んでいたのでは無いのだろうか。理解してしまえばあっという間だった。

「わたしはザンザスさんを、皆を、お世話になったボンゴレを守りたい……」

 どんなに彼等が罪を犯して、業を重ねていたとしても、わたしにとって彼等ボンゴレファミリーはわたしの恩人である事には変わりなかった。きっとボンゴレは綱吉が変えてくれる筈だ。わたしはそれを支えたい。わたしの大切な人達を守るために闘いたい。

 此処にいる理由を見つけ出すことが出来た。



 炎を灯すことが出来たことを伝えると、スクアーロさんには遅いと怒られた。だが、表情は柔らかく嬉しそうに「これからが本番だ」とニヤリと笑った。

 どうやらわたしが受け取った二つの箱は、匣兵器と言うらしい。リングを灯し、その匣に炎を注入すると本来の姿が現れると言う。

「七属性の中でも、大空は特別だ。どの属性の匣兵器も開く事ができる。まあ他属性の匣の力を全て引き出す事は出来ないとされているがな。だがお前は違う。……まあ少し昔の話になるが」

「?」

「お前がエストラーネオファミリーにいた頃の話だ」

「え……」

「お前の過去の話は多少は知っている。まあ幹部のメンバーだけだがな。お前は過去、死ぬ気の炎を宿していたがその炎は小さく、何とかして大きくしようと思ったエストラーネオの奴らが無謀な実験をした事は間違いないな?」

「はい……。毎日少しずつ炎を何かに入れて、圧縮したエネルギーを戻すという実験でした」

「お前はそれに耐え切れず暴走してあのファミリーを潰したと思っているだろうが、実際は半分成功していた。あの実際のせいでお前の中に空っぽの空洞が出来ている。そしてお前はその空っぽの所に死ぬ気の炎を蓄えて置く事が出来るんだ、半永久的にな」

「元から持っているエネルギーと別にですか?」

「そうだ。そのコントロールを未来のお前は出来ていた。それがあれば最悪エネルギーを全て失っても逃走する為のエネルギーは別で持っていられるし、ここぞという所で力を格段に増幅する事も出来る。まあそういうエネルギーを圧縮する匣兵器もあるんだがな」

「それと、他属性の匣兵器を最大限に引き出せる事に何か関係があるのですか?」

 同じ役割を持つ匣兵器が存在するのであれば、わたしの力は特別でも無いように感じた。

「これはエストラーネオの奴らも想定外だろうが、実験のせいでお前は死ぬ気の炎を吸収する事が出来る」

「それって綱吉が行っているような?」

「そうだ。そしてお前はそのエネルギーを大空に変換すること無く持っておくことも可能なんだ」

「つまり、わたしの体には他属性の炎も持っておけるという事ですか」

「理解が早いな」

 それが出来るのであれば、どんな属性でも扱えるという事になる。吸収した分だけであると少し心許無い様な気もするが他属性の炎を宿す事が出来るのは、かなり有利であると思う。
 だが所持出来る他属性は一種のみらしい。未来のわたしは雲属性の炎を常に蓄えており、雲の匣兵器を扱っていた様だった。
 今のわたしは雲の死ぬ気の炎を少しも貯えて居ないので雲のリングを灯すことが出来ないらしい。スクアーロさんに連れられ、雲の波動を持つ方に会わせてもらう事にした。
 その方はわたしを見ると驚き目を見開いたが、事情はスクアーロさんから聞いていたのだろう。何も言わずにリングに炎を灯してくれた。やり方が分からなかったので、とりあえず炎に手を翳してみる。するとみるみるうちに炎が掌の方に伸びていったのだ。
 体の中に暖かな何かが流れていく感覚がした。
 中に入ってきた暖かさを今度は外に出す様に、雲のリングの方を見つめると小さいながらも炎がしっかりと灯された。

「これが……雲の炎」

 それはとても綺麗な本紫色だった。
prev / next

top