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 わたしは吸収した炎をそのまま雲の炎として出す訓練と、それを変換して大空の炎にする訓練をした。エネルギーを貯蓄出来たとしても、コントロール出来なければ何の意味も無い。
 以前と同じ様に体術や剣の扱い方を学びながらも、ザンザスからの贈り物である銃の扱い方についても教わる様になった。それもザンザスさん本人に。最初は緊張したが間違った所を見つけると彼は直ぐに教えてくれた。コツを掴むまでは何度も鼻で笑われる事もあったが、最近になって漸く注意される事も少なくなったと思う。
 憧れていた彼に直接教えて貰えるこの時間はわたしにとってとても有意義な時間であった。

「あのザンザスさん」

「何だ」

「十年前、マーモンさんに修行を付けるようお願いして下さったのはザンザスさんですか?」

 わたしはずっと気になっていた。十年前修行を始めた頃マーモンさんが地下室にやって来た時の事を。彼は物腰は柔らかいがお金の為に動く様な残酷で冷徹な部分も持ち合わせている。そしてその当時、彼は既にお金を頂いていると言っていた筈だ。その人物を教えてもらうことは叶わなかったが。初めは父かと思ったが、もしかしたらザンザスさんなのではと暫くしてから思ったのだ。
 だがこの世界にはパラレルワールドという物が存在している。わたしがいた過去から無数にも枝分かれしていて未来へと続いている為、マーモンさんが修行を見ないという世界もある筈だ。もし此処がその世界であれば答えは分からないが、何となく答えを聞ける気がしてわたしは尋ねてみた。
 彼は何も答えなかったが、ふと表情を柔らかくすると頭の上に掌を乗せた。

「今日はこれで終いだ」

「あ……はい。今日も有難うございました」

 彼はそのままトレーニングルームから立ち去った。わたしは先程の表情を思い返しながら自分の頭に触れた。
 初めて此処で会った時も感じたが、十年後のザンザスさんはとても柔らかくなったと思う。それが全てに対してなのかは分からないが。十年後のザンザスさんはとても大人びていて更に落ち着いた空気を纏うようになったと思う。大人びた風貌も、あの柔らかい表情も、先程の様な行動も以前のザンザスとは少し違っていて、わたしは慣れる事が出来ずに心臓の音が大きくなるのを止められなかった。



 修行に明け暮れていた為わたしは暫く会うことは無かったが、数日前から笹川くんがヴァリアー邸に来ているらしい。
 わたしは夕食を取る為ダイニングホールへと向かった。ここ最近は疲れて簡単な食事しか取っていなかった為、この時間に訪れるのは久しかった。
 どうやらダイニングホールには何人かいる様だ。相変わらずヴァリアーの皆さんは食事中も騒がしい様で廊下までその声は聞こえた。
 扉を開けると中にはベル、スクアーロさん、レヴィさん、笹川くんが居た。此処に来ていたのは本当だった様だ。

「なまえでは無いか!!なまえも過去から此処に来ていたのか!!」

「笹川くん……って何だか可笑しいわね、十年も経っているからわたしよりも年上なのに」

 気にする事は無い、と彼は言ってくれたので、お言葉に甘えて以前の様に接してもらう事にした。わたしは笹川くんの言葉が気になり「わたしも、という事は他にも誰か来ているの?」と尋ねた。
 だがそれに答えたのは笹川くんでは無く、ベルだった。

「それがなんと、日本にいる沢田綱吉とかその守護者達も此処に飛ばされて来ているらしいぜ」

「綱吉達が?!」

 わたしはその事実に驚愕した。その様に彼等も驚いた様だった。

「十年前では彼等が行方不明になっていたんです」

「成程な。実は全員十年後に飛ばされていたという訳か」

「それは沢田綱吉と共に計画したと手紙には記してあったのだな?」

 本当は入江正一という方もなのだが、それは伝えなかった。ミルフィオーレについての情報が少ない今、入江正一を仲間だと伝えた所で信じないと思ったからだ。ベルには手紙を見られてしまっているが、彼も特に何かを言うつもりは無い様子だった。

「でも皆も無事なのね……良かった……」

「飛ばされた場所がこんな未来じゃあ、良いのか悪いのか分からねえけどな」

「生きていればそれで良いのよ」

 未来の綱吉とわたしは過去のわたし達にこの未来を託したのだ。此処での時間は良いも悪いも無い、大切な時間だ。
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