38

 ファミリー首脳による大規模作戦が計画された。それは過去から綱吉達が来たことを仮定し作られた作戦だという。
 ボンゴレ同様、ミルフィオーレには多数の支部があるらしい。そして綱吉達は五日後に日本支部の主要施設を破壊する事になった様だ。それと同時期にボンゴレは全世界のミルフィオーレに総攻撃を仕掛ける作戦らしく、ヴァリアーはイタリア本部の主力戦に充てられる事になった。
 笹川くんはそれを伝えるべく数日前に日本へと向かった。どうやらクローム髑髏も此方にやって来ているという情報が入ったらしい。守護者が少しずつ綱吉達の所に集まっている。これを逃せば二度とチャンスは無いだろう。
 残り数日しかない時間を無駄にすることは出来ない。



 わたしは最後の確認をするべくリングに炎を灯した。
 ルッスーリアさんから渡されたリングは二つ。
 一つは雲属性のヴァリアーリング、これはボンゴレ二代目の残したボンゴレの至宝である虹の欠片を加工して作られているらしい。ジュエリーデザイナーに百回も駄目出しをして今のデザインが出来上がったのだと、ルッスーリアさんから話を聞いた。
 もう一つはルッスーリアさんも詳細は知らないらしいが、いつの間にか未来のわたしが持っていたという大空属性のリング。シンプルなデザインながらも真ん中には大きな琥珀色のフラワーカーヴィングが施されている石が埋め込まれていてとても美しい。初めて見た時はその美しさに見惚れる程だった。
 二つのリングに炎を灯し、匣兵器に炎を注入する。

「ルーポ・デイ・チエーリ。
バレリーナ・ビアンカ・ヌーヴォラ」

 現れたのは二体の匣兵器。一つは大空属性の匣兵器である天空狼、もう一つは雲属性の匣兵器の雲ハクセキレイ。この二体がわたしの匣兵器だ。
 初めはこの二体にどう接して良いのか分からず困惑したが、彼等は十年前の姿であれど沢田なまえだと理解している様で、初めて開匣した時にゆっくりと近付き、わたしの掌に擦り寄ったのだ。
 未来のわたしの手紙によれば狼の方はアンバー、ハクセキレイの方をフリージアと呼んでいたらしい。アンバーとは琥珀の事だ、彼の瞳は大空属性の象徴的カラーでもある琥珀色であった。きっと未来のわたしはその素敵な瞳の琥珀色からそのまま名前に付けたのだと思う。
 本紫色の炎を纏うハクセキレイをフリージアと名付けたのは恐らく紫色のフリージアの花言葉が、憧れという意味だからであろう。

 彼等の名前を呼ぶと二体は嬉しそうにわたしに擦り寄った。

「もうすぐ始まるみたいなの、よろしくね」

 その言葉に二体は返事をするかの様に鳴き声を上げた。



 遂にミルフィオーレへ総攻撃を仕掛ける日がやってきた。
 ミルフィオーレはボンゴレの奇襲を早期に察知した様で、圧倒的戦力と兵数で此方の行く手を阻んできた。わたし達も加勢し、なんとかミルフィオーレの指揮官の居る古城を制覇しなければならない。
 スクアーロ作戦隊長の指揮の元、わたし達は二手に別れて古城に潜入する事になった。わたしはスクアーロさん、レヴィさんと共に表口から突破する。

「ヘマすんなよ」

「分かっています」

 掛け声と共に一斉に古城へと攻め込んだ。
 わたしはナイフホルスターから二つの短剣を抜き取る。二つを構えると刃の部分はオレンジ色の炎を纏った。
 飛び掛ってくる敵を左の剣で受け止めながら、右の剣で薙ぎ払う。わたしの剣はリーチが短いのですかさず体を翻し、次の攻撃を仕掛ける。敵は圧倒的に男性のが多かった。敵より小柄なわたしは俊敏性なら負けない。
 わたしはふと自らが倒した敵のリングが目に付いた。この敵は嵐属性だったか……。何となくその目に付いたリングを抜き取り掌に乗せた。未来のわたしは一種類のみしか体内に蓄えておけなかったそうだが、わたしは賭けで他のリングを持っておく事にした。戦闘中に敵から出来るだけ炎も吸収する様にもしていた。万が一の為持っておいて損は無いだろうと思い、わたしはリングをポケットの中にしまった。

 スクアーロさんや、レヴィさん、他の先輩方の強さは歴然で、ものの十分で古城を占領してしまったことにわたしは驚いた。

「やっぱり凄い……」

「何ビビってんだよ」

 階を上がると裏口から乗り込んだベル達と合流する事が出来た。

「死ななくて良かったな」

「初めての敵との戦闘がまさかこれとは……」

「開幕戦にしては丁度いい肩慣らしになったんじゃねえの?」

 そんな事を言われるが、わたしとベル達とじゃそもそものレベルが違うのだ。ましてや今回が初めての戦闘なので此処まで来ただけでもわたしの心臓は大きく音を立てていた。
 見晴らしのいい所まで上がっていく。開けたバルコニーに出ると周りの景色が良く見えた。
 どうやらミルフィオーレの敵数は此方の想像以上の様であっという間に古城は囲まれてしまった様だ。

「んもうっ!籠城戦なんて退屈よ!ディフェンスなんて性に合わないわ!」

 ぷりぷりとしながらルッスーリアは叫んだ。確かにヴァリアーの皆さんは籠城戦なんて性格では無いだろうが……。
 どうやらスクアーロさんは東の抜け道を、ベルとフランさんは南側を、レヴィさんとルッスーリアさんとわたしは城で待機する事になったらしい。

「ゲッ、オレがフランのお守り?」

「嫌なのはミーも同じですー。あいつ嫌なタイプですので。前任のマーモンって人の代わりだとかで、こんな被り物強制的に被せられるのも納得いかないしー」

 わたしはフランさんのその言葉に初めて会った時の疑問が解けた。あれはベルが被せたのか。
 辺りを見渡すと古城からは沢山の煙が上がっていた。下の方には敵の兵達がゾロゾロと群がっている。
 ザンザスさんは後から此処に来る予定らしいが、もう着いているのだろうか。

「分かったら行けぇ!雑魚新兵は好きなとこへ連れて行け!」

 スクアーロさんの言葉でベル達は南側へと向かった。わたしはルッスーリアさん達と中に戻り、ザンザスさんと合流する事になった。
prev / next

top