41

 わたしは初めて白蘭の姿を目にした。ホログラムで現れた彼はとても飄々としていて、瞳の奥は全く笑っておらず、何を考えているか分からなかった。
 彼は十日後に力比べをすると宣告した。その為にもスクアーロさんは山本くんの修行をみることになったらしく日本に向かった様だった。



 主力戦が終わってからヴァリアーは残党狩りや後始末に追われて忙しい日々を送っていた。その時、日本に向かったスクアーロさんから連絡が入る。何でもチョイスをする時は過去から来た人物は必ず集まるようにと白蘭から通信があった様だ。
 わたしは後から追うように日本へと飛んだ。

 予定では本日十二時に並盛神社に集合らしいが、時計を見てみると午前九時を指している。わたしは並盛へと急いだ。
 途中、目の前を見知った背中が通った。風紀と書かれた紋章をしているので、きっと十年前から来た雲雀くんであろう。彼の後ろに着いていくと気配に気づいた様に此方を向いた。刹那、彼が少しだけ目を見開く。

「へえ、来ていたんだ」

「過去から来た者は全て集合と言われたからね」

 上に駆け上がると、綱吉達は残りの人達を待っている様だった。全員が揃い綱吉の掛け声と共に匣を開匣する。エネルギーは1000万FVを越えていた。彼等の覚悟がそれ程大きいのだという事が分かる。
 他の皆はわたしの存在に驚いている様だった。

「なまえ」

「久しぶり、綱吉」

「てめーらおせーぞ!」

「だが沢田、良く来ると分かったな」

「……いや、分かっていたのは全員揃わなくては、白蘭に勝てないということだけだ」

 空から降ってくる様にカードが無数に並んだ。綱吉はそこから一枚を抜き取る。どうやらチョイスというのは各選択肢を“チョイス”する事で決まるらしい。今回決めたのはフィールド。綱吉が選んだのは雷のカードだった。
 眩い光に包まれるとふわりと体が宙に浮いた。そのままとてつもない引力に引かれると、今度は浮遊感を感じ地面へと落ちていた。
 着地し、辺りを見回す。そこには先程の景色とはまるで違う、超高層ビル群の中心に立っていた。すると遠くから此方に向かって歩いてくる集団を見つける。わたしはすかさず短剣と匣に手を添えた。

「やあ、何度も会っているような気がするけど、僕と会うのは初めてかい?綱吉君」

 現れたのは白蘭とその仲間である真六弔花であった。

「で、でたー!白蘭と真六弔花!」

「やあ、過去のなまえチャンも初めましてだよね、また会えると思わなかったよ。今すぐ戦闘を始める訳じゃないんだ。武器から手を離してくれるかい?」

「…………。」

 わたしは言われても警戒を解くこと無く、白蘭を静かに見据えた。この人が未来のわたしを殺した人……。だが彼はわたしの視線を全く気にしていない様だった。

 次の“チョイス”は人員選抜の様だ。ジャイロルーレットを回すとマークの横には数字が現れた。敵と味方で数が違う様だが、このチョイスというゲームは運も味方につけなければ勝てないらしい。
 ボンゴレは綱吉、獄寺くん、山本くん、スパナさん、入江さんが。ミルフィオーレは桔梗、デイジー、トリカブト、猿と呼ばれた四人が選ばれた様だ。
 勝敗のルールも様々らしいが、今回はターゲットルールというもので行うらしい。チームから一人ターゲットを選出し、そのターゲットがやられたらゲームオーバーという分かりやすいルールだ。そしてそのターゲットは先程ジャイロルーレットで選抜した際に属性マークに炎が灯っている属性の人がなるらしい。わたし達のチームは入江さんが選ばれた。
 無属性というジャンルもある為、過去から来た者は全員集合と言ったのだろう。わたしは今回出番は無い様なので、ビル内の観覧席へと移動した。その時に笹川さんや三浦さんと少しだけ挨拶をしたが、彼女達は綱吉から全てを聞いたらしい。何も分からずこの世界に飛ばされ、真実を知ったのは怖かっただろう。二人の頭にぽん、と手を乗せると彼女達はきつくわたしを抱き締めた。どうやら逆も同じようにわたしのことを心配してくれていたらしい。彼女達の優しさにわたしは暖かくなった。

 チョイスがスタートした。綱吉達は未来に来てからもめきめきと成長し、リング争奪戦の頃とは全く違っていた。未来のわたしはこれを待っていたのだろう。彼等ならやってくれると信じ、わたしは此処で彼等の応援をした。



 結果から言うと、ボンゴレは負けてしまった。相打ちかと思われたが敵のデイジーは死ねない体らしく再び胸に炎を灯したのだ。
 急いで入江さん達の元へと向かう。そこで聞かされたのは、今の現状になった全ての経緯だった。そしてこんな未来を変える為にも十年後の綱吉やわたしは、過去から自分達を連れてくることで打破しようと考えたのだ。
 全ての話を聞き終わるとわたしはぞっとした。過去、皆でお寿司を食べた時の話があの時既に現実に起きていたというのだ。ベルの双子のお兄さんが再び現れたのもこの為だったのか。

 入江さんはチョイスの再戦を申し込んだ。だが白蘭はそんなものは無いと、彼の希望を一蹴する。その時、こつりと靴音が鳴ると、心地の良い澄んだ声が聞こえた。

「白蘭。私は反対です」

 するとリボーンの首から下げているおしゃぶりが光り始める。

「ミルフィオーレのブラックスペルのボスである私にも、決定権の半分はある筈です」

 そこに現れたのはブラックスペルのボスであるユニと呼ばれる少女だった。どうやら彼女は白蘭に魂を壊されていたらしい。
 彼女はチョイスの再戦を受け入れたが、白蘭は頑なに受け入れなかった。そして飽くまでナンバー2である彼女の話は聞き入れないと答えた。
 それに対し彼女はミルフィオーレファミリーを脱退する事を告げる。そして綱吉に守って欲しいと頼み込んだ。

 あのおしゃぶりの輝きは彼女にしか出せないのだろう。光り輝くおしゃぶりを見た白蘭は先程までの態度を一変し彼女を取り戻そうとするが、綱吉は彼女を守ると決意した様だ。

 相手の攻撃から逃れながら超炎リング転送システムに向かい走り出した。
 雲雀くんの匣兵器により何とか敵の足止めをしてくれているが、白蘭はそれをも乗り越え此方までやってきた。

「お前達は先に行け、今度はオレが時間を稼ぐ」

 ディーノさんはそう言うが、そうすれば彼はここに取り残されてしまう。何か良い手はないのかと思案したその瞬間、クローム髑髏さんの三叉槍から不思議な感覚がすると思うと霧のように姿を変え、現れたのは青紫色の髪、髪色と同じ色の瞳と赤色の瞳を持つオッドアイの青年が現れた。わたしはこの人を知っていた。

「貴方は……」

「骸!!」

 驚いた。まさか彼が何度も話題に上がっていた六道骸だと言うのか、わたしは彼と二度会ったことがある。一度目は幼い頃イタリアで、二度目は並盛で。
 彼の幻覚は凄まじかったが、彼は現在復讐者という牢獄に閉じ込められているらしく、本調子では無いらしい。それも十年もずっと牢獄の中で。ということは彼と並盛で出会ってから今もずっと牢獄の中に居るということになる。
 彼はユニを守る為に皆の盾になる事を告げた。
 彼は綱吉に此処をお願いされるとちらりと此方を向いた。目が合ったが、特に何かを言うつもりも無いのか、前を向き直ると白蘭の攻撃を防いだ。

「絶対に大空のアルコバレーノ、ユニを白蘭に渡してはいけない」

 白蘭の腕が彼の体を貫通する。

「………さあ早く転送システムに炎を」

 その言葉にわたし達はリングに炎を灯し、再び並盛へと戻った。
prev / next

top