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 なまえのあんな姿は今まで見たことが無かった。全身に炎を纏い、鋭い目をして敵に立ち向かう姿。この時代の彼女が白蘭と対峙した時もあんなだったのだろうか。

 この時代のあの子が白蘭に殺られたと話を聞いた時は心の底から憎悪が湧いた。あの子が亡くなった時の事は忘れられない。もう二度と味わいたくない。私達の力がもう殆ど残されて無かったとしても、過去から来た彼女を失う事はヴァリアー全員にとって阻止しなければならない事だった。

 白蘭がとどめを刺すように、彼女もまた全ての力を白蘭にぶつけるつもりの様だ。

「駄目よ!!なまえ!!」

 そう叫んでも彼女に私の声は聞こえてはいない。
 何時からかあの子が大事そうに持っていた琥珀色のリングから大きな炎が溢れた。その炎も全てぶつけるように白蘭へと放つ。その中には赤い、嵐の炎も混ざっている様だった。

「あれは……」

「なまえのやつ、他の炎も扱える様になっていたのか!」

「なまえ!!!」

 白蘭も驚いていた様だった。そりゃそうでしょうね、この時代のあの子には出来ない事を彼女はやってのけた。だが敵の腕も真っ直ぐと彼女へと伸びていた。このまま彼女が避けなければ再びあの時の悲劇が繰り返されてしまう。

 刹那、横から炎が飛んだか思うとそれを追うようにボスが戦場へ駆ける。炎は白蘭に向かって真っ直ぐと向かったが、敵の腕は彼女の肺に突き刺さってしまう。

「なまえ!!」

「そんな!」

 わたしは地獄を見ている様だった。

 だが白蘭も無傷ではいられなかった様だ。彼女の攻撃はしっかりと刻まれ、片方の翼はもがれている。瞬間、飛ばされた筈の沢田綱吉が白蘭に目掛けて拳を放った。
 ボスはしっかりとなまえを抱きとめていた。

 あの時と違うのは私達がなまえの周りにいる事。
 そうよ、わたしが必ず命を繋ぐ。絶対に死なせやしない。
 ボスとなまえを囲む様に私達は駆け寄った。残ったエネルギーはごく僅かだがやるしかない。わたしはクーちゃんにお願いをした。

「彼女に再び死なれては困る」

 そう言い私達の所に六道骸がやってきた。どうやら彼女達は幼少期に出会っていたらしい、以前あの子が教えてくれた。
 私は少しずつ外傷を治していく。六道骸が肺を補ってくれた為、少しずつ顔色が良くなってきた。



 全てが終わっても彼女が目を覚ます事は無かった。沢田綱吉が白蘭を倒したって、彼女が目を覚まさなければ喜べる筈も無い。ねえ、なまえ。もう戦いは終わったのよ、後は貴女が目覚めるだけ。お願い目を覚まして。

「なまえのあの炎はどうやら命の炎に近いものなのかもしれないな」

 リボーンがそう呟いた。──命の炎。それはユニがアルコバレーノを復活させる為に使った、命と引き換えに灯す炎。なまえの体質変化によりまぐれで起こってしまった様なものなのだろうか。

 ボスは何も言わずにしっかりとなまえを抱きとめていた。そうしてゆっくりと頬に手を伸ばすと静かに口を開く。

「おい。大切にいているものを守ると言ったのは何処のどいつだ」

 きっと彼等にしか分からない約束事でもあるのだろう。すると、なまえの瞼がぴくりと震えるとゆっくりと彼女が目を覚ました。

「……わたし……です」

「カスが」

「なまえ!!」

 彼女を囲む様に見守っていたもの全てが喜んだ。わたしは涙を抑えることが出来なかった。

「戦いは……」

「終わったわ。貴方の弟が全てを終わらせたのよ」

「良かった……」

 だがユニは亡くなってしまった事を告げると、彼女は悲痛な顔をした。
 隣にいた沢田綱吉も残りの力は殆ど残されて居ないらしく、その場に力なく座り込んだ。

「この戦いで沢山の人が傷付いて……この時代のなまえも、山本のお父さんも、他のパラレルワールドでも多くの人が死んじゃって……。勝ったは勝ったけど、もうこんな滅茶苦茶で、本当に……勝った意味なんてあったのかな……?」

 そう呟いた瞬間、何処からともなく声が響いた。

「大ありに決まってんだろ!!コラ!!」

「あつ!なんだこりゃ?!」

「よくやったな、沢田!コラ!!」

「この声!!」

 遠くで眩い光が輝くと、そこにはおしゃぶりを抱えたアルコバレーノが復活した。
 彼等はユニから事情を教えて貰ったらしい。そして白蘭が倒された今、持ち主を失ったマーレリングの力も無効化されたという。それによって白蘭がマーレリングによって引き起こした出来事は全て、全パラレルワールドの過去に遡り抹消されると彼等は言った。

「ということはつまり……」

「白蘭の行った悪事は全て綺麗さっぱり無かったことになるんだぜ!コラ!!」

 その言葉に私は震えが止まらなかった。

「そうしたら、この時代のなまえは……」

「恐らく死んだ事自体が無くなっているだろね」

「マーモン!」

 ヴァリアーの面々は口には出さないものの皆喜んでいる様に見えた。あの子が用意したカキツバタの花言葉通りになったのだ。幸せは必ずくる。来世のあの子に向けて私達はずっと送り続けた。それが叶ったのだ。

「なまえが……生きてる」

 隣でベルちゃんが小さく呟いた。彼はあの子が死んだ後もずっとあの庭を訪れていたし、負けたくないがあの子と友人として一番仲が良かったのは彼であったのは間違いなかった。私達はマフィアであり暗殺部隊のヴァリアーであるけれど、なまえの事は本当に大切に思っていた。

「よかった……」

 過去のなまえが呟いた。
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