23

 わたしは緊張していた。彼等に受け入れてもらえるか分からなかったからだ。



 イタリアを訪れるのはとても久しかった。忘れていた記憶を取り戻したとはいえ、イタリアに滞在していたのはもうかなりも前の事だ。街並みを見ても懐かしさは感じられなかった。
 今回は父と共にイタリアのボンゴレ本部へと訪れた。九代目に会う為、そしてヴァリアーの皆さんに会う事を許可してもらう為に。
 街並みは懐かしさを覚えなかったのに、奥ゆかしくも煌びやかな装飾が目立つ本部は少しだけ懐かしいと思えた。

「懐かしいか?」

「よく覚えてはいないけど、少しだけ」

 前を歩く父の背中はとても真っ直ぐで大きかった。わたしはこの背中にずっと守られていたのだ。それを裏切る様な事をしてしまったわたしに初めこそ咎めはしたが、最終的に父はわたしを受け入れここまで連れて来てくれた。わたしの気持ちを汲んで父を共に説得してくれた母にも、わたしをずっと慈しんでくれた父にも感謝の気持ちでいっぱいだった。

「此処だ」

 とても大きい扉。この中に九代目が居るのだという。リング争奪戦でモスカの動力源とされてしまった九代目は一命を取り留め、厳重な警備の元入院していたが数日前に退院したらしい。だが負った傷はとても大きく退院はしたが暫く満足に動く事も出来ないのだと父から聞いた。わたしは静かに扉をノックした。

「どうぞ」

「失礼致します」

 中にはベッドから朗らかな表情を覗かせた九代目が居た。

「寝たきりですまないね、良く此処まで来てくれた」

「わざわざお時間を割いて頂いてありがとうございます。お身体は大丈夫ですか?」

「なあに、大丈夫じゃよ。最近は気分もとても良いんだ」

 九代目は優しく微笑んだ。父は何も言わずに九代目の隣へと移動した。

「今回は何かわたしに用があるのじゃろう?」

「はい。わたしは今回のリング争奪戦の途中まで過去の記憶を忘れておりました。マフィアの事も、自分の過去の事も」

「…………。」

「わたしは過去にザンザスさんにとても残酷な約束してしてしまいました。そしてそれを謝る為にも彼に会いたいのです。どうかそれを許可していただけないでしょうか」

 わたしは九代目をじっと見つめた。それに返す様に九代目もわたしの瞳を見つめた。まるで心の奥を見透かす様に。

「それだけかい?」

「……え?」

「まだあるのだろう?わたしに聞いて欲しい事が」

 言っても良いのだろうか?でも此処で言わなければわたしの願いは永遠に伝えられないかも知れない。少しでもあるチャンスを逃す訳にはいかなかった。

「……本当は、ヴァリアーの方達と共に居たいです」

「ほう。彼等に人質として拐われたのでは無かったのかい?」

「その事は事実ですが……彼等の優しさにも触れました」

「それは本当に彼等の優しさなのかい?」

「……もしかしたら偽りかも知れません。ザンザスさんも過去のわたしの記憶とは違っているかも知れません。ですが、わたしは彼の様になりたいと以前誓ったのです、努力を怠らない彼の姿勢を。わたしは彼の傍に居たい。その為に少しでも可能性があるなら、諦めたく無いんです。九代目や父がわたしをマフィアから遠ざけて下さった事は重々承知です。失礼な事を申し上げていることも分かっています。ですが……お願いします、ヴァリアーにいる事を許してはいただけないでしょうか」

 わたしは頭を下げた。心臓はこれでもかという程大きく音を立てていた。

「頭を上げなさいなまえ」

「っ……」

「家光はどう思っているのだ?」

「わたしはなまえの気持ちを尊重したいと思っております」

「意外だな……」

 九代目は暫く考え込んだ。

「うむ……そうか、ならわたしもなまえの気持ちを尊重することにしよう」

「え………」

「だかしかしザンザスが受け入れるかどうかは別の話じゃ」

「……はい」

「先ずはヴァリアーの所に行ってみるといい、そこからもう一度話そう」

「分かりました。九代目、本当にありがとうございます」

「昔の様にお爺様でも良いんだぞ?」

 記憶を取り戻した今、幼い頃の様に九代目をお爺様と呼ぶにはあまりにも年月が開きすぎた。九代目は寂しそうな顔をしたが流石に恐れ多くて断った。
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