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 今夜は此処で泊まり、明朝ヴァリアー邸に向かうことになった。父に案内され部屋に着く。広い部屋にはバジルさんと呼ばれていた人がソファに座っていた。

「親方様!」

「バジル御苦労だった。なまえ、オレの部下のバジルだ」

「なまえ殿!こうしてお話するのは初めてですね、拙者バジリコンと申します、バジルとお呼びください」

「初めまして。沢田なまえです」

 どうやら父はこの後仕事で移動しなければならないらしく、代わりにバジルさんに来てもらった様だ。

「夕食は二人で取ってくれ。ここの者が呼びに来る筈だ」

「うん。……ありがとう、お父さん」

「なあに、良いってことよ」

 じゃあバジル宜しくな、と告げると父は部屋から出て行った。バジルさんが腰掛けていた向かいのソファに座ると、遠くに佇んでいたメイドの方がお茶を出してくれた。わたしは会釈をしてからバジルさんの方に向き直る。

「わざわざありがとうございます、バジルさん」

「いえ!なまえ殿とお話してみたいと以前から思っておりましたので。それより拙者の事は気兼ねなくお呼びください」

「……ありがとう、バジルくん」

 わたしの事も遠慮する事ないと伝えたが、彼は「これが日本の文化であると教わったので」と改めるつもりは無さそうだった。一体父は彼に何を教えたのだろうか。



 わたし達はその後夕食を共にした。彼は体格の割に大食の様で、目の前に並んだ豪勢な料理をぺろりと平らげた。
 食後のデザートは意外な事に芋羊羹だった。先程の料理もそうだったが、ボンゴレは日本に縁でもあるのだろうか?それともわざわざわたしに合わせて料理を作ってくれたのだろうか。

「芋羊羹に緑茶!日本を感じられて凄く嬉しいです」

「バジルくんはとても日本が好きなのね」

「元よりボンゴレは日本とも深く関係がある為、日本が好きな方は多いんですよ」

「そうだったのね、知らなかったわ」

 青白磁色の湯呑みに入ったお茶はとても甘く香りも豊かであった。

「玉露かな」

「ギョクロ……ですか?」

「緑茶にもね、種類があるの。玉露は栽培途中、日光に当てずに栽培するのよ。そうすることで渋味が少なく香りも豊かになる。口に入れると少し甘味を感じない?」

「確かに……普段飲むものより渋く無く、甘いです。なまえ殿はよくご存知なのですね。拙者にもっと日本の事を教えて頂けませんか?」

 その後はバジルくんと日本の文化について暫くの間談笑した。夜も更けてきた頃、わたし達はそれぞれ充てられた部屋へと戻った。

「ではなまえ殿、おやすみなさい」

「おやすみなさい、バジルくん」

 明日はいよいよヴァリアー邸に向かう。
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