枝分かれ徒花

episode 10

 わたし達は誰一人怪我すること無く、無事救出された。灰原さんはわたしに何かを言いたげであったが、偶然遭遇したコナンくんと合流すると、二人で何処かへ走り去った。きっと、あの女性の元に向かったのだろう。

「なまえお姉さん、ありがとう」

「ううん、みんな怪我しなくて良かった」

 遠くからわたし達を呼ぶ声が聞こえると、蘭さん達がこちらに走って来るのが見えた。

「良かった!!みんな無事?」

「はい!なまえさんと灰原さんが来てくれたんです」

「なまえも?!まさか観覧車が転がるだなんて恐ろしくて震えたわ……」

「二人は大丈夫だった?」

「水族館に居たからぶつかるかと思ってヒヤッとしたけど大丈夫」

 騒ぎを聞きつけ、心配した蘭さんのお父様とも合流し、コナンくん達を探す。すると何処からか鋭い視線を感じ、わたしは辺りを見渡した。

「どうかした?」

「ううん、何でもない。わたし、ちょっとあっち側を探してみる」

「みんなで行こうか?」

「大丈夫、すぐ戻るわ」

 林になっている方から視線は感じた筈。だが気配を殺し、ゆっくりと近付いてみてもそこには誰も居らず、もう行ってしまったのかと踵を返す。

「なまえさん?」

 林から少し離れ、蘭さん達の元へ戻る途中、わたしを呼ぶ声がした。ずっと気配は感じていたが、それを表に出してしまえばこの人には更に疑われてしまうだろう。

「安室さん……?どうしてここに」

「それは僕の台詞ですよ。どうして、そちら側から来たんですか?そっちは林しかありませんよね?」

 何となく安室さんがここに居るのは分かっていた。なんたって彼は公安の人間だ。そしてキュラソーと名乗る女性が公安の者と共に居たということは、その組織にも関わっている彼が来るのはほぼ必然であろう。

「実はコナンくんを探してるんですが見つからなくて、何処かで見かけていませんか?」

「僕は見ていませんね」

「そうですか……あの、怪我、されてますけど、大丈夫ですか……?」

「え?ああ……大したことありませんから、大丈夫ですよ」

 彼がじっとわたしを疑うような目で見ていることが分かる。これがもし普通の女性であれば恐怖を抱くであろうし、ここまで分かりやすく睨みつけられては、疑っていますと言っているようなものだ。

「あの……何か?」

「あ、いえ!すみません、止めてしまって。そちら側は何も無いので、コナンくんを探しているのであれば、向こう側がいいと思いますよ」

「そうみたいですね。ありがとうございます、ではまた」

 すれ違う瞬間、彼に再び見られたような気がしたが、あまり気にしすぎてもかえって彼を刺激するだけであろう。わたしは蘭さん達の元へと戻った。

「合流出来たのね」

「うん、丁度さっきね」

 既にコナンくんと灰原さんは他のみんなと合流しており、彼女から事情を聞いたであろうコナンくんがわたしを見つめる。安室さんといい、彼もまた隠さずにわたしを見つめるものだから、逆にどう反応するべきか迷ってしまう。これは憶測でしか無いのだが、もしかして彼が工藤新一くんなのではないだろうか。
 灰原さんには後で話すと言ってしまったが、ここではお互いに場所が悪い。それにきっと彼等は今そんな話が出来る程、心の整理もついていないだろう。灰原さんとの会話は少ししか聞いていないが、キュラソーと名乗る女性と彼等は何やら色々と関わりがあるようだ。元敵であれど、その死を簡単に受け入れられるほど、二人は堕ちている人間では無い。
 かくいうわたしも、マフィアに囲まれた生活を送っているとはいえ、人の死はなるべく起きて欲しいものではないと思っているし、無闇に触れていいものではないと思っている。

「わたしは逃げません」

 二人にしか聞こえない程の小さな声で話しかければ、二人は驚いたようにこちらを振り返る。

「今日は、色々あったかと思います。灰原さんの都合がいい日に連絡をください。その時は貴方も来るんでしょう?コナンくん」

「いいの……?」

「断っても意味が無いと思っていますから」

 最悪盗聴器を仕掛けられる可能性がある。流石に口には出さなかったが、きっと彼には伝わっているだろう。案の定、彼は眉を顰めていて「灰原が都合がいい日を俺から連絡する」と、携帯の番号が書かれた紙を差し出す。
 彼はもう隠す気が無いようにも見えた。





[back to top]