episode 04
「どうしてなまえさんも此処に?」「学校で怪盗キッドの話をしたらなまえも気になってたから呼んだのよ」
俺の質問に答えたのは園子だ。
「それより驚いたのは世良さんよ。怪盗とか興味無さそうだったのに……」
「興味無くはないさ!探偵には何かとライバルが付き物だしね。それに蘭くんがベルツリー急行で拾ってくれた帽子のことも聞きたかったし」
想定外の二人を連れて、俺達は今夜怪盗キッドが現れるであろう展示場へと訪れていた。
既に予告状が鈴木次郎吉相談役の元に届いてるとメディアに流れ、展示場の中はキッド目当ての人集りが出来ている。一際賑わっているガラスケースを覗くと、中には宝石を纏った亀が水槽の中を悠々と泳いでいた。
「この亀が背に纏っている、レッド・ダイヤモンド。ブラッシュマーメイドじゃよ」
金色のネックレスごと背中に付け、腹の部分にも無数の宝石が付いてるようだ。
「こんな10センチぐらいのデコった亀を、ベルツリー急行の一等車で展示しようとしてた訳?」
「そうじゃ!水槽は硬質ガラス。奥は厚さ2メートルのコンクリートの壁!天井と両脇は特殊合金の金網。しかも獲物は水中を泳ぎ回るとなると……いかな月下の奇術師でも盗られやせんと思ってのう!」
「恐ろしく悪趣味だけど……」
正直、動物愛護団体が乗り込んで来そうな案件である。俺達が顔を歪める中、隣にいた沢田なまえはこっそり俺に耳打ちをしてきた。
「ベルツリー急行って先日、爆破事件があったあれですか?」
「え?……ああ!そうそう。さっき少しだけ話したよね。あの時は事件が起きてそれどころじゃ無かったみたいだけど……」
黒づくめの奴らが乗り込んで、キッドどころでは無くなってしまったあの時の事件。まあそのキッドには大事な役割を担ってもらった訳だが。昴さんが言うには沢田なまえは黒づくめとは特に関わりは無いだろうと言っていたが、怪しい人物には変わりない。
「その事件はキッドが行ったのでしょうか?」
「いや……違うと思うよ。キッドは一応、人殺しはしないらしいんだ」
「成程……」
そう言い沢田なまえは考え込むような表情を見せた。その瞬間、部屋の中に大きな声が響く。
「おい!観覧の時間は終了だ!関係者以外はこの部屋から退出しろ!」
威圧的な態度に世良は顔を顰めた。
「誰だ?あの人……」
「警視庁捜査二課の中森警部よ!怪盗キッド専任の警部さんらしいけど……」
「そうそう。キッドが絡むといつもいるし」
じゃあキッドにいつもしてやられてるのは、と世良が言いかけた瞬間、その中森警部が彼女の頬を抓った。
「痛たたた……っ」
「おいボウズ!聞こえなかったか?!関係者以外は出てけって言っただろ!?」
蘭と園子は世良が自分達の友人であることを伝えようとしたが、彼女はそれを止め、あろう事か中森警部に膝蹴りを入れた。
「オゴォォ!」
「脂汗をかいてるってことは警部も変装じゃないみたいだね」
世良は涼し気な表情で言った。
「そしてお前は……」
「あ、この子も私達の友人なんです」
沢田なまえです、とお辞儀をした彼女に中森警部も渋々とした表情で「まあ、いいだろう」と言った。先程世良にやられたのが相当効いているみたいだ。
退出する観覧客と入れ違いに、蘭を心配したおっちゃんも登場し、世良は御手洗へと向かい、暫くしてから俺達の元に戻ってきた。戻ってきた世良を見て、沢田なまえは少しだけ首を傾けたような気がしたが、何かあったのだろうか。
「それにしてもキッドってとても人気なんですね」
外からの歓声を聞いた沢田なまえが言った。
水槽の周りには警備隊が囲んで守り、二階にも凡そ百人近くの警備隊が配備されているらしい。中森警部は今度こそキッドを捕まえようと意気込んでいる。
「ねえねえ、キッド登場まであと何分?」
園子が尋ね、蘭と沢田なまえが携帯電話を開く。沢田なまえが口を開く前に蘭が「あれ?」と声を漏らした。
その瞬間、園子の背後から糸のようなものが現れ、彼女達や中森警部達を巻き込んでカーペットが持ち上がった。唯一、沢田なまえだけが、ひらりと体を翻してカーペットから逃れる。その身軽さに俺は目を見開いた。
糸はシャンデリアから繋がっており、一番上まで持ち上がると、水槽を目隠しするようにカーペットが張り付いた。刹那、会場にカウントダウンが響き渡る。
「Three……Two……One……」
そしてシャンデリアの付近で音と共に紙吹雪が舞うと、カーペットを持ち上げていた糸が切れ、水槽との間に挟まれていた園子や世良達が解放され地面へと倒れた。
「園子、世良さん大丈夫?!」
慌てて俺と蘭と沢田なまえは走り寄った。
「それより宝石は?!」
世良の言葉に全員が水槽の中を見る。だがそこには宝石を纏ったあの亀はいなかった。
「嘘……。何処にもいないよ……?」
「水槽の中にカードがありますね」
カードに気付いた沢田なまえが、それを読み上げる。
「シャイな人魚は泡となって我が掌中に消えました……怪盗キッド」
その言葉に周りはざわりと騒ぎ立てた。この状況で一体どうやって宝石を盗んだというのか……。
中森警部が水槽内を隅々まで探せと叫ぶ。すると背後から鈴木次郎吉相談役が「これは怪盗キッドの……」と呟いた。
「何て書いてあるの?!」
「ほ、宝石は頂戴した。信じられんのなら確かめてみよ、と書いてあるわい!」
すぐ様、ポケットから携帯電話を出した鈴木次郎吉相談役は金網のロックを解除することを命じ、脚立を用意させ、自ら水槽の中身を確認した。
「だ、駄目じゃ……何処にもおらぬわ……」
怪盗キッドは一体どうやって宝石を盗んだのか……。入口からはキッドの情報を得る為に押し寄せてきた客の声が聞こえる。暫くするとキッドが宝石を手に入れた情報が他の客にまで伝わったのか、外からはキッドコールが大きく響き渡った。
「くそっ!犯罪者の応援なんかしやがって……」
「彼は随分皆さんから好かれているのですねぇ」
沢田なまえは何処か含みのある言い方をした。彼女は何かに気付いているのだろうか。それとも、彼女は変装した怪盗キッド本人、又は仲間なのだろか。俺は頭を悩ませた。