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その日はよく晴れていた。わたしは未来から帰ってきた日からあの場所を良く訪れていた。十年後の未来、わたしの墓があった筈のあの場所へ。此処には本来花は植えられていなかった。それでも十年後の此処には沢山の花が咲き誇っていて、それは美しかった。わたしは今でもあの光景を忘れる事が出来ずにいる。死んだ事に少なからずショックは受けたが、あの花の数はわたしが周りから愛されている数だと思ったからだ。
だから、とは言わないが、わたしは今此処にある風景が少しだけ寂しく感じてしまっていた。自分が愛されていない等と思ってはいないが、何故かふと先日話した事を思い出してしまったのだ。ザンザスさんが最近女性の元に通っているのではないかという話を。
わたしには関係の無い事だと、何度も自分に言い聞かせたがそれでも心の黒い靄を無視する事は出来なかった。だが、わたしにはそれが何故なのか、理由を付けられずにいた。この感情は一体何なのだろう。
そう考えていると、ふと背後から気配を感じ振り返る。そこにはあの日から見る事の無かったザンザスさんが居た。
「此処に居やがったか」
「ザンザスさん、どうして此処に……」
彼はわたしの問いに答えること無く目の前まで近付くと、わたしの手を取り、掌に黒い小さな箱を乗せた。
「……これは?」
「開けてみろ」
黒い箱を開くと、そこには未来で見たあの琥珀色の石が埋め込まれた指輪が入っていた。未来と同じ様にフラワーカーヴィングの施された美しい指輪だった。
「これ……」
「くれてやる」
「良いんですか?」
「その為に何度も彫金師の所まで通ってたんだ、当たり前だろ」
わたしはその言葉に勢いよく顔を上げた。
「最近此処に居なかったのは……」
「あの彫金師の質問が一々うるせえからずっとそっちにいた」
内心ほっとしてしまったわたしはやはり寂しいと思っていた、という事だろうか。彼が此処にいない間もわたしの事を考えてこれを作ってくれたのだと思うと嬉しくて、先程まで感じていた黒い靄は何処かへ消えてしまった。
「あの銃もくれてやる」
「……銃?」
「未来で使ってただろう。もうじきあれも来る」
此処に花が咲いていなかろうと、此処に居ていいのだとわたしはちゃんと認めてもらえている。黒い箱から指輪を取り出し、右手中指に嵌めた。真ん中の琥珀色の石を花の様に削って作られるフラワーカーヴィングは、高い技術が求められるらしい。秋の光を吸い込む様に、琥珀色のその石の花は煌めいた。リングの部分は細かいレースの様な彫刻がされていて太さは多少あるが、繊細さもある美しさだった。
「ザンザスさん、ありがとうございます」
そう言うとザンザスさんは少しだけ目元を緩めて「使いこなせなきゃ意味がねえがな」とわたしを試す様に少しだけ笑った。
「守りたい物を見つけられたので大丈夫です」
わたしは指輪をひと撫でしてから、ザンザスさんの瞳を見つめて言った。
後日ザンザスさんから渡された銃をルッスーリアに見せようと、わたしは談話室で彼と共にドルチェを食べながら、渡された時の事を話した。
ザンザスさんの銃より一回り小さいサイズはわたしの掌にぴったりと合っていた。見たところ、未来で使用したものと変わらない様に見える。未来で使っていた物よりも綺麗なままのそれを手にして、わたしは喜びと共に胸に抱いた。
「随分嬉しそうねぇ」
「ザンザスさんからの贈り物だもの」
「あのボスがなぁ……」
たまたま居合わせたスクアーロさんも驚いた様にその銃を見つめた。未来からの記憶で知っていたとはいえ、実際に渡された事に少々驚いているらしい。
「最初は此処にいる事すら反対してた癖に」
「それはなまえが心配だったからでしょう」
「受け入れた途端これだ」
スクアーロさんは呆れた様に片手を上げた。
「その指輪もなんでしょう?」
ルッスーリアはわたしの右手を指さした。
「うん。綺麗だから何度も見ちゃうの」
「光に当たると煌めいてとても素敵ねぇ。ボスったらセンスあるわ〜!」
ルッスーリアもこのデザインを気に入った様でしげしげと指輪を見つめた。
彼の言う通り、琥珀色の石は光に透かすと中で光が屈折して内側から輝くように煌めいていた。わたしはその光を何度も見つめ、彼の事を思った。