52

 日本に戻って来て最初の連休。わたしはザンザスさんに言った通り、修行の為イタリアへ戻っていた。

「撃て」

 パァンと高い音が響く。圧縮したエネルギーを出来るだけ細くする事で攻撃力を高めてから的を射る。次に溜めたエネルギーは地に向かって広がる様に放つと、今度はわたしが宙に浮いた。くるりと体を翻し、次の的に向かって攻撃を放つ。

「空中で放つ時に銃口が下がりがちだ」

 ザンザスさんの目の前で着地すると、彼はわたしの後ろから右手に触れる。銃口を少しだけ上げようと、わたしの掌を包む様にグリップを握った。
 普段彼に対してそこまで意識する事は無かったが、イタリアを離れる日に横抱きにされた時からわたしはザンザスさんとの距離を意識してしまっていた。離れていたのもあって尚更だったのかも知れない。的を狙う様にザンザスさんが近付くと、頬に彼の髪が触れる。わたしの心臓は大きく鳴り響いた。

「おい、聞いてんのか?」

「え?……は、はい!」

「お前……」

 じろりとザンザスさんに睨まれたが、彼はわたしを暫く見つめると何も言わずに再び前を向いて的に狙いを定めた。

「もう少しあげろ」

「こう……ですか?」

「そうだ。空中で打つ時はなるべく気にして撃て」

「わかりました」

 帰って来てからかれこれ数時間が経っていた。修行が終わり、わたしは汗を流す為にすぐさまヴァリアー邸の自室に戻り、バスルームへと駆け込む。熱いお湯を頭から被り、先程のザンザスさんとの距離を思い出しては何度もかぶりを振った。
 わたしは一体どうしてしまったのだろう。未来のザンザスさんに抱き止められた時はこんなにドキドキする事は無かったのに……。思えば、琥珀色の指輪を貰う時もそうだった。ザンザスさんに恋人が居るかもしれないと分かった時に感じたあのもやもやも最近になって湧いてきた感情であった。
 パズルピースを嵌めるようにわたしは今まで彼に対して抱いてきた感情を振り返る。出てきた答えはわたしが彼に恋愛感情を抱いているのではという事だった。

「わたしが……?ザンザスさんを……?」

 確かに彼の事は大切で、ずっと傍に居たいと思っているし、守りたいとも思っている。でもそれは幼少期に取り付けた約束や、わたしに居場所を与えてくれたからであって恋愛感情とは別だと思っていたが……。
 だが理解してしまえば、すとんとわたしの中で何かが収まった。そうか、わたし、ザンザスさんのこと好きなんだ。



 そうと分かった次の日の修行は今までとは違い、ザンザスさんの男性的な姿を目にするとわたしの心の奥はきゅう、と締め付けられる様な感覚がした。

「ありがとうございました」

 何とか今日の修行も終える事が出来た。この後の予定は帰宅準備をしてそのまま帰る事になっている。他の皆とは会えなさそうだな、と思いながらわたしは銃をしまった。

「なまえ」

 突然ザンザスさんに呼び止められて振り返る。彼は何かを言いたげに此方を見つめていた。

「どうかなさいましたか?」

 彼の元へ行き、緊張を隠す様に告げた。すると彼は黙ったままわたしの髪を掬い、あろう事かそこに口付けたのだ。

「っ!」

「少しはマシになったか」

「な、何が……」

 全く最近のザンザスさんの行動は予測不可能である。わたしは心臓をばくばくと鳴らし、一歩だけ後ずさった。

「ふっ、このまま上手くいけばいいんだがな」

「……?」

「帰る時に呼べ」

 そう言ってザンザスさんは踵を返し、地下室から出て行った。わたしはその場にへたりと腰を抜かす。まさか髪にキスをされるとは思ってもいなかった。
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