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「ただいまっ!」

苛立った気持ちのまま ぼすん、と乱暴に学校指定の鞄をベッドに放り投げると反動で跳ね返ってきて鞄はそのまま私の右足の小指を襲った。

「〜〜〜っ!」

声も出ないほどの痛みに思い浮かぶのはあの忌々しい赤髪。

「ぜんぶ太陽のせいだっ!」







「それは災難だったなぁ」
「笑い事じゃないよっ!」

ああごめんごめん、とケラケラ笑いながら愛紗兄は目の前の唐揚げを箸で摘む。

今日はお母さんが仕事で留守なので愛紗兄の作った唐揚げとマッシュポテトが晩御飯だ。

愛紗兄は私の四つ上の、格好よくて強くて自慢のお兄ちゃん。

「でも太陽も悪いヤツじゃないだろ?」
「それはそうだけど」

そう。太陽自体が悪いのではない。悪いのは、アイツが私のことを好きなこと。

「何がそんなに気に食わないんだよ。」
「愛紗兄にはわからないよ。」

だって、私にだって、いるもん。

唐揚げをひとつ口に放り込んで咀嚼し、その言葉と一緒に飲み込む。

するとピンポーンと玄関からインターホンが聞こえた。

はーい、とぱたぱた駆けていく私の後ろで愛紗兄がぽつりと呟く。

「…あ、そうだ。そういや今日来るんだった。」
「だれがー?」
「夜助」
「えっ」

振り返った時にはもう遅く、開いたドアの先には見慣れた漆黒が広がっていた。懐かしい匂いと、「こんばんは」と紡がれる心地良い中低音。

「や、夜助兄!」
「こんばんは、紗英ちゃん」

手抜きの服とボサボサの髪で出くわしてしまったのは、私の憧れの人、枚方 夜助 その人だった。



空回りレイディ
(第六感か働けばいいのに)

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