変わる世界/アレン



コンコン、と数回。思った以上に響いたノックは私の心を落ち着かせてくれない。中から返事はない。


『……アレン、入るよ』


派手な音を立てた扉の奥には、生気のない瞳で壁にもたれていれアレンの姿。涙が出そうになるのを必死に堪えては、扉を閉めゆっくりと近づいた。


「……ラズア…」

『アレン……』


私へと視線を移したアレンはニコリと笑った。その笑顔があまりにも儚くて脆くて、崩れ落ちてしまいそうで、思わず抱きついた。

チャリ、とアレンの足に繋がれている鎖が鳴る。ああ、なんて…なんて酷い仕打ちだ。あまりの悔しさに自分の無力さに歯ぎしりをする。

突如、触れられた髪に撫でられた頭に顔を上げる。


「…そんな顔しないで、ラズア」

『でも、でもッ!!こんなの……!!』


あまりにも、酷すぎる……っ!!開いた口からは何も言葉は出てこず、代わりに出てきたのは涙。違う違う…違う!!泣きたいわけじゃないのに!!泣いたって…何も、どうにも、ならないのに…ッ!


「ほら、とりあえずベッドに座って。ここじゃ床が冷たい」


困ったように笑うアレンは私の涙を優しく拭ってそう言った。ああ、私が慰められてどうするんだ、違うだろラズア、私が、私が―――バガンッ!!


勢いよく開かれた扉に思わずアレンを背に身構えた。が、思わず声を上げそうになった。何故…って、扉の前にはアレンを睨むように立つリンクの姿があったから。


『リ、リンク……?』

「…………………………」


無言のまま近づいてきたリンクは、湯気のたっている小さな土鍋をアレンの顔に押し付けた。


「あつッッ」

「ジェリー料理長のおかゆです。用心深いキミに信じてもらえるよう工夫してもらいました。食べなさい!!!」


それを聞いて私は土鍋の蓋を開く。そこには"ルベリアルのくそったれ"と調味料で描かれていた。思わず吹き出してしまう。両膝で器用に土鍋を挟んでおかゆを食べるアレンを見てとりあえずは安心した。


「リンク。あの時、責めるようなこと言ってごめん」

「……やっと言葉を話したと思ったらそんなことですか!!……家族みたいなものでした。親を失って教会に物乞いに行くうち群れるようになって、生きる為に暗部に引き取られて私たちはいつしか人形のようになった。サードに償うべきは私です」

「…………ああ、……ほんとダメだなぁ。こうして知れば僕はもっとサードと仲良くできたのに。進んで半AKUMAになったってだけで、嫌悪に近い感情を抱いてました。知らないって怖いことですね」

『ッ…………』


結局私は何も言えず、黙っているだけだ。何も、何も言ってあげられない。せめて、抱きしめてやろうと手を伸ばした所でやめた。アレンの様子がおかしくなったから、


『アレンッ!!!』


倒れるアレンを受け止め、何度も呼びかける。だが、なんの意味も無く混乱が私を襲う。なんだ、毒?…いや、有り得ない、じゃあ…なにッ!!!

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