if アイナナ(2)
仕事が終わった直後、ラビチャを見て眉間にシワがよるのを感じた。欠伸を一つ零したハルに対して口を開く。
『ハル、事務所まで車出して。飛ばして』
「…………あー、……はい」
いつもなら、車を止め一緒に事務所に入るのだが今日は別だ。一言お礼を告げ制止するハルの言葉を無視してドアを閉じた。
レッスン場の扉の前、複雑な顔をした社長を見つけ声をかける。
『……何か言ってきたみたいですね社長』
「遊乃くん…!どうして」
『紡からラビチャがきてぶっ飛んできました。ま、多分大丈夫ですよ。心配しないで、後は任せてください』
「解散だと、お疲れ様でしたと…そう言ったんだ」
『……大丈夫ですよ皆は。きっと』
扉に手をかけたところで後ろからハルが追いかけてきたが、もう遅い。開いた先には暗い顔をしたアイドリッシュセブンのメンバー達と紡。そして隣で大きく何かを諦めたかのように、溜息を吐いた、ハル。
「遊乃さん……!?」
『おー、お前ら丁度揃ってんな。とりあえずさ……その場で正座しろ?』
「……すまん、こうなった遊乃は止められない」
「ぞ、存じ上げております……」
ニッコリと笑った私は腕を組んで静かに囁いた。明らかに顔を引き攣らせた7人は、言う通りに正座して大人しく座る。
『紡から事情は聞いた。お前らの記事も読んだ。…で?メンバー内はギスギスして、紡を困らせて?何してんだお前ら?……ああ、何、もしかしてあんな記事信じてんの?』
信じてるの?そう問いかけた途端に変わる皆の顔色。わかってる。これはこの子達の一つの試練だって、甘やかしちゃいけないんだって。それでも、やっぱり
『そう、信じてるわけだ。根も葉もない、なんの根拠もないただのデタラメ記事を皆は信じてるわけね。……まあ、気持ちは分からなくもないわ。ねえ、貴方達は7人でアイドリッシュセブンなの。貴方達は今まで7人でやってきたのよ?本当に記事に書いてたことが事実だと思っているのなら……貴方達はそれまでの絆だったって自分から言ってるようなもんよ。こんなくだらないことに負けて、新人賞獲得したことを喜べないなら社長の言った通りに今すぐ辞めなさい。
ここで躓くようならこの先なんて無理よ。……あんた達の夢は、何?その答えが分からないなら全てそれまでだったということよ』
小さく息を吐いて、前髪をかけあげた。言い過ぎただろうか、ヒントを与えすぎただろうか、それでもやっぱり彼等はここで倒れて欲しくない。
『……突然ごめんね紡ちゃん。言いたい事は言えたし私は帰るわ』
私よりも小さい頭を優しく撫でてやる。すれ違いざまに誰にも聞こえないよう、呟いた。
『おつかれさま。後のフォロー頼むわ』
「は、はい……!ありがとうございました!」
もう一度頭を撫でてやり、今度こそ事務所と彼等を後にした。外に出て大きく息を吐き出しては、勢い良くハルに抱きついた。
「……おつかれさん。よく頑張ったな」
『言い過ぎちゃった。…諦めたりしないよね?』
「ま、アイツらなら大丈夫だろ。本当に解散するなんて言ったらアタシがぶん殴る」
『…ふふ、ハルなら本当にやりそう。……私達もあることないこと書かれたよね』
「……そうだな。あの時のお前は面白いくらい怒って、その後すぐ冷静になってキレてたな」
『えぇ、私、そんなに怒ったっけ……』
覚えてないならそれでいいと、私のおデコに唇を落としたハルは小さく笑い車に行こうと私の手を引く。……お願い、あんなくだらない記事に惑わされないで気づいて。そう願っては灯りのついてる部屋を見つめ、帰路についた。