if Free!
ポツ、ポツ、と小さかったそれは段々と音を増してテントを激しく打ち付けた。元々眠りの浅い私は、雨の音ですぐさま目を覚ましてしまい、溜息を零す。この土砂降りじゃあ当分寝れそうにないな。
音を立てないように寝返りを打ったところで、私は目を見開く。
『…怜……?』
トイレ、かな?……いや、ビート版が無い。それに晩御飯を食べてた時ずっと暗い顔をしてた。まさか、海……?その瞬間ドクリと心臓が一際大きく鳴る。すぐさま飛び上がり、昼とは真逆の荒れ果てた海を凝視すれば遠くには、溺れている怜の姿。
「怜ッ!!!」
『!?真琴!?!待ちなさッ!!!…クソッ!』
いつ起きてきたのか、後ろから突然真琴の声が聞こえたと思えば、服を脱ぎ捨て躊躇なく荒れている海へと飛び込んだ。今ほど自分のズボラな性格に感謝したことは無い。下着に着替えてなくて良かった。
ジャージとシャツを脱ぎ捨て真琴の後を追う。固まっている真琴の肩を叩き、すぐに怜の方へ泳ぎ私に掴まらせた。流石に昼の疲れが出てる、キツイ。
「怜!真琴、遊乃!!」
『はる!?渚まで!!チッ、早く戻るよ!!』
「遊乃ちゃん、怜ちゃんこっちに!先行って!」
『ごめ、ありがと…!!』
―――真琴を担ぐハルより少し遅れて浜辺へと足をつけた。崩れ落ちるようにその場へ倒れる二人の元へ駆け寄り、真琴の意識を確認する。…呼吸が浅すぎる。
「あっ、遊乃、真琴、は」
『落ち着きなさい、大丈夫だから』
真琴の顎に手を添え唇が触れるその瞬間に、彼は海水を吐き出しむせては意識を取り戻した。
『真琴!!平気!?』
「っ…は、る……遊乃」
雨を凌ぐ為に、大きな岩の下へと座り込む。話し始めた真琴の手は震えていて、少しでも安心させようと握れば弱々しく握り返される。
『……渚達、探しに行か「いたいた!おーい!」…渚!怜!』
聞き覚えのある声に振り向けば、笑顔でこちらに手を振っている姿。思い切り渚と怜に抱きつく。よろめきながらも受け止めてくれ、軽く背中を叩かれた。
「みんな無事で良かったよー!」
「良くない!!何で夜の海なんかに『ハル』…」
『怜。練習しようとしてたのよね』
「っ、」
「…は、い」
『その心意気は褒めてあげるわ。でも言ったよね?焦るなって。真琴にも言われたはずよ。……っ、はぁ、私が何も言わなくても分かってる顔だから説教は無し。でも、二度とひとりで夜の海に出るなんて真似しないで……本当に無事で良かった』
言い終えた瞬間、膝から力が抜けるのを感じ崩れ落ちる。疲れと皆揃ったという安心感が一気にきてしまった。ああ、もう、本当に焦った……。
『あー、立てない疲れた寒い』
「…確かに寒い、ってか遊乃ちゃん!!そんな格好じゃ、さ、寒いに決まってる!!」
『しょうがないじゃん…下着じゃないだけマシ。というか、今更何照れてるのよ』
「……っ、あ」
そう言ったハルの目線を追うと存在感のある灯台の姿。いいとこにあるじゃん。立ち上がろうと足に力を入れた瞬間に引かれる腕、そのまま姫抱きにされた体。
『え、あ、真琴!?待って、歩ける!!』
「大人しくしてて」
「まこちゃんカッコイイ……」
触れている素肌が徐々に温もりを帯びていき、冷えきった体が少しはマシになった。何を言っても降ろしてくれそうのない雰囲気に、そっと頭を預けるだけだった。