if 最遊記

最遊記

あぁ、私はもうすぐ死ぬんだって残酷なことに二十歳の誕生日にそう確信した。唯一の肉親は父親のみで、日に日に弱る私の姿を見て医学書と睨めっこしては目の下のクマを酷くさせていった———


ガタ、と何かが倒れる大きな音で目が覚め視線をずらせば、古い書物を手に立ち上がっている父が椅子を倒したのだと理解した。

「これだ……もう、」
「お父さん?」

なんて弱々しい声なんだと、自分で情けなくなる。私の声にピクリと反応した父は書物を置いて、私の側へとやってきた。

「おはよう、もうすぐ誕生日だよな。待ってろ、最高のプレゼントを用意してくるから」

そう言った父の表情は、久しく見ていなかった柔らかい笑顔を浮かべていた。リュックに荷物を詰めだす父に異様な不安と違和感を覚え、どこに行くんだと問うが父は「大丈夫だからな」と答えになっていない言葉しか口にしなかった。

準備を終えたらしい父は扉を開き、私を見つめ「待ってろ」とそう言った。蚊の鳴くような声で父を呼ぶが、雨と扉の閉まる音で簡単にかき消されてしまう。

てっきり次の日の昼には帰ってくるのかと思えば、夕方になっても晩になったも父は帰ってこなかった。そして二日、三日と過ぎ父の療養で今まで過ごしていた私はついに立っていることさえままならなくなってしまった。

父は何をしているんだろうか、何故帰ってこないのだろうか、何かあったのだろうか…そう考え出せば嫌な想像が脳裏を駆け巡り不安が心を支配する。
そんなストレスから、余計に体調は悪化し薬を取ろうと立ち上がった足は言うことを聞かず床へと倒れる。

両目はかすみ、呼吸も浅い。あぁ、私は死ぬんだ、って、お父さんに何も伝えられてないのに、私強くなくてごめんなさい、一人にしちゃうことになって、ごめんなさい。

「…やく、かえ、て……き、よ……おと、さ」

閉じていく瞼に、抗うことも出来ず最後に脳裏に浮かんだのは両親の幸せそうな笑顔だった。

ーー

ガタンッ、とでかい揺れに目が覚めてそこで初めて私は寝ていたのかと知る。滅多にと言って良いほど車で寝たことなどないのに、余程疲れていたのかと、もたれ掛かっていた悟浄に礼を告げる。

「だーっ!!八戒!テメーの荒い運転のせいで桜ちゃん起きちまったじゃねェか!くそ、せっかく……!」
「桜やっと起きた!」
「おっと、それはすみません桜さん」
「チッ、おい桜今すぐ寝ろ。騒がしいのが騒ぎ出した」

そう言えば、いつも騒ぐ二人が静かだったな、と悟空を横目で見ればニコニコと可愛らしい笑顔で私を見つめていた。

「私そんな寝てたかな」
「いえ、15分程ですよ」
「ふふ。悟空も悟浄も珍しく静かだった気がするけど?」
「桜が寝ちゃったから、なんか喋れなくって」
「俺によりかかってくる桜ちゃんを襲いたすぎ、ってぇな!!んのバカ猿!」
「うるせぇ!万年発情エロ河童!!!」

いつもの楽しい光景じゃないか。悟空の頭をゆっくり撫でて、静かにしてくれててありがとうと伝えると元気よく「おう」と笑った。


だがそんな平穏も続かず、ジープの前に飛び出してきた命知らずは叫ぶ。三蔵の経文を寄越せと、それが引き金のように次々と経文、経文、三蔵一行を殺せ!など物騒な言葉が耳を支配した。

誰かが舌打ちすると同時に私はジープのボンネットへと飛び乗り、腰につけてる双刀を素早く構えそのまま飛びかかった。

「てめーら、私の寝起きに出てきたのが運の尽きだったな。私めちゃくちゃ寝起き悪ぃんだわ」
「……え、そうだったの…?」
「あんな桜久しぶりに見た。怖ぇ……夢見悪かったんだなぁ…」

返り血を浴びないよう、慎重に捌いていく。もうこれも何度目だろう、いや、何百何千でも足りないほどか。無駄なことを考えていても、戦いに馴染んだ身体は無意識に動く。

あっという間に終わった戦闘だが、小さく息をついた。双刀の血を払い鞘へと収める。

「最悪、お風呂入りたい。お腹空いた」
「言うな」
「ごめん」

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