「何やってるんですか」
冷えた彼の声が響く。…水が冷たいなぁ。
「ほら、早く拭かないと風邪を引きますよ…貴方は立花みたいに馬鹿じゃないんですから」
「…ごめんね、黛くん」
蜘蛛の子を散らしたように走り去った人たちを追うこともせず刀也くんは私にタオルを渡してくれた。
「謝らないでください、直前まで気付けなかった僕のミスですから」
私があらかた水を拭き取ったのを確認すると刀也くんはではまた放課後に、と言って教室に戻ってしまった。
元はといえば私がもっと警戒心を持っていれば刀也くんに心配掛けることも無かったのに。
「本当に優しいなぁ…」
このまま虐められたことも忘れちゃえそうだ。
「桜華ーっそんなとこでどうしたのー」
上の渡り廊下から立花がこちらを覗いている。
刀也くんがいなくなったからと安心していた私には少しヒヤヒヤする展開だ。
よくよく立花の方を見るとイブラヒムくんが呆れ顔で立花を眺めていた。
私が見つめていたのがバレてしまったのか彼は素早く会釈するとそのまま立花の首根っこを掴んで連れて行ってしまった。
…そろそろ次の授業だな、なんてぼんやり考えて憂鬱になる。
当たり障りのない女の子のフリをして、誰からも気付かれないようにしなくちゃ。
…迷惑を掛けないように。
「一人で背負い込みすぎなんだよ…」
ふわり、慣れた彼の香りがして。
「黛くん…?何で」
「熱出てるかもって言われたんだよ、立花に」
気付いたら私は彼におぶられていた。
そして立花はあの距離で、そしてあんな短時間で私の身体の不調を見抜いてしまったらしい。
本当に幼馴染二人には勝てないや。
そうこうしているうちに保健室についたみたいで、怠慢な保険医の先生はどうやらいないみたい。
ベットまで私をおぶってくれた刀也くんにお礼を言う。
「先生には僕から言っておきますから、ゆっくり休んでろよ」
刀也くんが耳元でボソッと呟いた言葉。
そのまま彼は踵を返して保健室から出ていってしまうが私は余計に体温の上昇を感じてしまうのだった。