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「ん〜………はよ、とうこ」
ゆったりとした動作で起き上がってきたのは私の双子の弟の立夏。
男の子だけど私より背が少し小さいし全体的に可愛らしい。
「おはよう立夏、ご飯できてるよ」
少し抜けててぼんやりしてるのが特徴。…それと朝に弱い。
「ん…刀子は食べた?」
「…一緒に食べよっか」
「うん」
立夏が寝間着にしているジャージは少しブカブカで袖が萌え袖になっている。
…なぁんて見ていたらバレたようで袖でてしてしと叩かれる。
ダメージは無いし可愛いからいいんだけど。
「立夏、今日の準備したの?」
「えっとね…多分、したよ」
抜けているというか、ポンコツというか…
つくづく立夏には振り回されてばっかりだ。
「着替えるから少し待ってて」
ちなみに立夏は見栄を張って予定より一回り大きなサイズの制服を買っている。
本人はどうせ伸びるからいい、なんて言っていたけど全く伸びた素振りはない。
とか言っている内に着替え終わった立夏は部屋から出てくる。
「行くよ刀子」
すると私に向けて立夏は手を伸ばす。その手は下手したらそこらの女の子よりも白く、小さい。
それでも男の子、握ったらがっしりしているものだから驚いた。
立夏は私の反応を特に気にした様子もなく眠そうに目を擦りながら懸命に私の手を引いている。
「離そうか?」と何度か聞けば必死に首を横に振り「刀子が危ないから駄目だよ」と止めてくる。
正直な話、立夏の方が危ないとは思うのだが秘密にしておく。
それを言っちゃえば顔を真っ赤にして怒られ、嫌い!とか言われてしまいそうだし。

「立夏くん、好きな人とかいる?」
立夏はモテる、可愛い容姿とは裏腹に気遣いは出来るしその癖して自分に優しくしてくれる。
人気は高いし女子には学年関係なく知られている。
「いないよぉ」
しかし立夏は鈍感だ。超がつくレベルの。
生半可なアプローチじゃ逆に自分が恥ずかしくなってしまう程、鈍感なのだ。
「…あ、刀子〜!」
人垣の隙間から私を見つけたのかふわふわ笑いながら近づいてくる立夏。
そして女の子たちの目線が一気に私に集中砲火。
「みんなごめんね、俺刀子と帰るからもう話せないや…ばいばい」
本当にどうして気づかないんだか。
下駄箱から溢れる程のラブレターも手渡しのお菓子も、誰かからの告白だって何一つとして効果を示したことはない。
恋愛小説やドラマを勧めたって「俺とは違う世界だな〜」なんて言って笑っている始末。
「ごめん刀子、このあと少し用事あってさ…ここで待ってて!すぐ帰ってくる…ようにするから!」
何かを思い出したように足を止めた立夏は私に謝ってくる。
立夏のことだから今度は告白か、はたまた詰め寄られるのかも知れない。
放課後に呼び出されるなんてテンプレだ。
最早呼び出されていない日の方が珍しいだろう。
そんなことを考えながら途中まで読み進めた小説を引っ張り出す。
そうして本を読んで待っているとふと声がした。
「あ!やっぱり刀子ちゃんだ」
「…仄架?」
「あれ、立夏は?」
「用事があるんだって」
「さっきいた気がするんだよね…だから刀子ちゃんは帰ったとばかり思ってたんだけど…」
「どうせ告白でもされてるんでしょ」
ぶっきらぼうにそう返すと仄架はくすりと笑って「そんなことないと思うけどね」なんて言った。

「あの刀子ちゃん大好きな立夏が」
「…なにか言った?」
「何でもないよ…そうだ!立夏には連絡しとくから…一緒に帰らない?」
「…別にいいけど」
「やった」
仄架がボソリと呟いた言葉を私は聞き取れなかった。
立夏には悪いけど私もずっと本を読むのには疲れていた頃だ。
仄架が来てくれて助かった。
「刀子ちゃんどっか行きたい所とかある?」
「特にないかなぁ…」
「じゃあショッピングモール…行きませんか」
「うん、分かった」
立夏には何かお土産を買って許してもらおう。
仄架も多分同じ考えだろうし分かってくれるだろう。

「僕が勧めた小説、読んでくれてたんだ」
「話聞いて面白かったから…」
「…今日も教えてあげるね」
立夏みたいに手を引かれることはなくても仄架は私の歩幅に合わせて隣を歩いてくれる。
ショッピングモールまでの道がいつもより遠く感じて何とも言えない気持ちになった。