「刀也、急に何なの…?」
戸惑ったままの妹を背後から抱きしめる。
身動きが取れなくなりながら不機嫌そうに僕の腕を解こうとする。
「どいてよ、刀也」
最早不安そうに僕を見る素振りもなくそのまま僕の手から離れていこうとする。
その目が何処を見ているのかを僕は知らない。
僕の半身、僕の片方…隣にいてほしくて、必死になって留めても隙間から飛び去っていく。
僕の知らない景色を知っている、立花。
「そうやって…また僕を置いていくんだろ…?」
誰でも傍に置く癖して誰にも本心を明かさない。
太陽のようなその顔が陰る瞬間を誰にも見せたことさえなくて。
弱みも、寂しさも、孤独も…僕に何も共有してくれない。
「あの頃みたいに壊れていくお前を見るのは嫌なんだよ…」
このまま隣でずっと笑っていてほしい。
守るから、僕が。自分の半身も、自分自身も。
「刀也には分からないよ、私のこと」
悲しそうに目を伏せた立花の表情。
僕が知らない所で傷付いた、可哀想な半身。
言い返す気にはなれなかった。
「じゃあ…僕の傍にはいてくれないのかよ…」
服の裾を掴む。立ち上がろうとした立花はそのままこちらに倒れ込み、僕の膝に収まる。
「…絶対に、なんて…断言出来ないよ」
その瞳が僕を射抜く。同じ色の瞳のはずなのに、異なる輝きを見せるそれに吸い込まれそうだ。
「一緒にいられなくなる時が、いつか来るんだから…」
僕はまだ、子供なんだ。立花が思ってるよりもずっと。
だから────。
「僕の傍にいろ、ずっと……お前の世話だって、何だってするから…だから…!」
「やめて刀也、それ以上は駄目だよ」
明らかな拒絶、そして抱き寄せた僕の手が解かれていく。
「今はまだ分からないだろうけど…こんなのは駄目なんだよ」
遠くに行ってしまう、僕の知らない所に。
立花が離れていく。
伸ばしても届かない所に…また僕は、立花を見殺しにして────。
「だって、私達は“兄妹”なんだから」
僕の抱く感情と立花の抱く感情が違うことなんて理解していた。
しかしこうも現実的に思い知らされるとは思っていなかった。
結局いつだって立花は優しいから、僕が悲しむことは言わないと高をくくっていた。
…現実を見ていたのは立花の方だった。
取り残されたままの僕を助けることなく立花は進んでいく。
「どうしたら傍にいてくれるんだ…僕はただ…」
「…私はもう大丈夫だから」
傷つくお前が見たくなくて…そう僕が呟く前にその言葉を立花は制した。
まるで僕が次に何を言うかさえ知っているように。
「一人で歩けるようになるからさ…もう支えてくれなくても平気だよ」
優しく僕の頭を撫でる手のひらの温もり。
久しぶりに感じて、もう離れていくそれを確かに感じていたかった。
もう少し僕が歩み寄っていればこうはならなかったのかな。
立花、行かないで。僕は一人じゃ歩けないから。
…なんて。寂しがりな僕は影に隠れて。
「…そうか」
何も言えなかった。納得することも出来なければ理解することだって出来ない。
それでも、認めなくちゃいけないことは分かっていた。
ずっと先延ばしにしていたこの問に答えないといけないときが…それが今なのだと知った。
「なら安心した、ずっとお前の世話を見るのなんてやっぱり御免だからな」
僕の、最初で最後の強がりだから。
…だからどうか気付かないままでいてくれ。