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待っていろと言われた場所の近くで刀也を発見したのはいいものの…そこには制服を着た江良ちゃんも一緒にいた。
このショッピングモールは学校と家のちょうど中間地点だから、学校近くに自宅があると言う江良ちゃんがここにてもおかしくはない。
(それでも広いこの場所で偶然出会うなんて……。やっぱり運命なのかも……!)
自分の存在が気づかれないように気配を消して息を潜める。
向かい合う2人は、焦っているようにも見える。
その後2つ、3つ言葉を交わしてから、江良ちゃんは両手で顔を覆って俯いた。
(もしかして、私と刀也が一緒にいるところを偶然見てショックを受けた…とか……)
きっとそうだ。
不安な顔で立ち尽くしている江良ちゃんの姿を刀也が見つけたんだろう。
お手洗いに行ってくると言いながら、実は江良ちゃんのところへ行っていたのだ。
(そんなこととは露知らず、私は買い物に夢中になっていただなんて……!)
気づいていればこっそり後をつけて、一部始終を見守れたのに。
しかし、今だって2人は良い雰囲気だ。
刀也は小刻みに震えている江良ちゃんの肩に手を置いて、落ち着かせようとしている。
俯いていた江良ちゃんがそっと顔を上げた。
不安そうに刀也を見上げる瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
——あぁもう、このまま抱きしめてしまえば良いのに!
これまた良い具合に空いている隙間がもどかしい。
ひっそりと近寄って、後ろから押してやりたい。
そんな衝動に駆られてウズウズするが、ここは我慢。
(せっかくの良いところなのに、今出ていったら邪魔しちゃうよね……)
私がいる場所は2人には気づかれない程度に近い距離。
2人を覗き見するにはベストな場所だった。
しかし、周辺を歩いている買い物客にとっては、店頭に並んでいる商品に身を隠している怪しい人物。
不審人物を見る様な周りの視線など全く気にならないほどに、私は2人の観察に集中していた。
そんな私に忍び寄る小さな影が——
制服のスカートがギュッと掴まれる感触。
(あ、え……!?)
驚いて下を向くと、大きな目に涙をいっぱいためた男の子が私を見上げていた。
「お姉ちゃぁん……」
「はえ……?」
(えーっと……誰なんだろう、この子?)
…知らない子だった。
保育園の制服を着て、黄色い帽子を被っている男の子。
その子は私の顔を見た瞬間、ためていた涙をボロボロとこぼして泣き出した。
どうやら私のことを“お姉ちゃん”と間違えたようだ。
まあ確かに私から溢れるお姉ちゃんオーラというものがね…というより今はこの子のことだ。
「ふぇえ〜〜ん」
「えっと……あのっ」
目の前で弱々しく涙を流しはじめた男の子に慌てる。
辺りを見回したが、保護者らしき人物は見当たらない。
(どど、どうしよう……っ!)
オロオロしていてもどうにもならない。
ここは自分が落ち着いてなんとかしなくては。
男の子の身長に合わせて膝を折り、優しく頭をなでる。
名前くらい言えるだろうか……?
「お名前、言えますか?」
「……樹」
「お父さんか、お母さんは?」
ぐしゃぐしゃになった顔を手で拭いながら首を横に振る。
(もしかしなくてもこの子迷子……だよね?)
一緒に来ていた家族とはぐれてしまって、今はとても心細いだろう。
迷子センターに連れて行くのが良いのだろうけど……。
ちら、と刀也達がいる方へ視線を向けた。
(……あぁ! 刀也と御伽原さんがいないっ!)
2人が先程まで立っていた場所には誰もいなかった。
私が目を離した隙にどこかへ移動したらしい。
今なら探せば見つかるかもしれないが、樹を放ってはおけない。

——よし。
「では樹君、お姉ちゃんと一緒に迷子センターに行きましょうか?」
にこりと笑って男の子に手を差し出す。
樹は俯きながらもその手を握り返した。