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すっかり涙も乾いて機嫌が戻った樹は、りっかお姉ちゃん!と手を握ってくる。
……かわいい。
その行動にきゅんきゅんしながら、手を引かれるままに適当にぶらぶらと館内を歩いた。
私が樹の相手をしている間、江良ちゃんと刀也は前を歩く私たちを見守りつつ、ぽつぽつと適当な会話をしているようだった。
江良ちゃんは学校を出た後、保育園に樹を迎えに行って、そのままここへ来たらしい。
樹のお絵描き道具を買いにきたと話しながら、箱入りの12色のクレヨンを見せてくれた。
「私はよくここに買い物に来るんですけど、刀也君と黛さんがこんな所にいるなんてびっくりです。お2人はどうしてここに?」
「僕達も少し買い物ですよ」
(ちょっとぉーーーっ!!)
さらりととんでもないことを言う刀也に足を滑らせそうになった。
こいつ…人を勝手に連れ回した癖に買い物だと…?
…危ない危ない、今の私は樹の手を握っているから自分が転んでは樹も危険に晒すことになる。
それだけはダメだ。
必死に足に力を入れて踏ん張った。
(全く……なんでそういう嘘をつくんだか)
照れ隠しのわりには江良ちゃんの質問に食い気味に答えている。
やっぱり嫉妬させようと小細工しているのだろうか。
……効果は全くもってみられないが。
それでもちゃんと訂正しなくてはと思った時、江良ちゃんの携帯が震えた。
彼女の父親からの電話で、仕事帰りに駐車場まで迎えにきてくれるらしい。
もうすぐ着くから、それまでに母親に頼まれていた玉子を買いに行かないと……と残念そうに言った。
(そうだよね。せっかく刀也と会えたのに……)
しかも江良ちゃんがいなくなったら私と刀也は2人きり。
それが不安なんだろう。
(心配しなくても良いんだよー。…あれ、でもその不安を刀也にぶつけることによって2人の仲は更に深く……)
また自分勝手な想像を脳内で繰り広げる。
考えはじめて静かになった私を見上げて、樹は「?」と首を傾げていた。
「りっかおねーちゃん?」
「え……?あっ!」
握られている手をくいっと引かれて、私は現実に戻ってきた。
そうだった。
江良ちゃんが帰るのなら樹も一緒に行ってしまうのだ。
「ほらおいで、樹。帰るよ」
「え〜〜っ」
「“え〜〜”じゃないの! お2人とも、今日はありがとうございました」
江良ちゃんは私と刀也に向かってぺこりとお辞儀をする。
“おいで”と言われた樹は、少しだけ駄々をこねて、寂しそうに私の手を離す。
私も離れていく樹の手が名残惜しい。
(ああ……もう少し一緒にいたかったなぁ……)
お迎えが来ているなら仕方がない。
江良ちゃんに手を引かれて“ばいばい”する樹に、私も微笑みながら手を振り返した。