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毎度この季節は盛り上がるのだ。女子達の黄色い歓声とそれに無反応な彼女の双子の兄。
ありとあらゆる所がチョコで埋まり、それは立花にも多大な影響を及ぼしていた。
「立花っ!これ黛くんに渡してくれないかなぁ…」
「分かった〜」
直接手渡しすれば?なんて言わない。乙女心とは複雑…らしいのだ。
まあ前に一度そういった時に頓珍漢な発言をして怒られてしまった過去があるのだ。
なんなら立花に仲介を頼むのはまだいいほうだ。
立花達とクラスの違う他学年はもっと大変だ。
「うわぁ、これはやばいんじゃないの立花…」
ロッカーを開けた途端ドサドサと落ちてくるチョコレート。
またか、なんて溜息を零すのも例年通り。
無心で袋にチョコを詰め込むと立花はアルスに微笑みかけた。
「よし、ごみ捨てに行こうか」
「え、捨てちゃっていいの?」
「僕に渡せてないじゃないですか、肝心のこの僕に」
「はいこれ、人伝チョコ」
「…義理とかじゃないんだよな」
「うん、バッチリ本命っぽい」
横からひょこりと現れた双子の兄に二人は半ば慣れた様子で応対する。
しかしその顔はまだ半日も立っていないのにげんなりとしている。
「…とりあえず受け取っとく」
「午後も頑張れ〜」
「はぁ…休めばよかった…」
非リアに恨まれるような発言を連発する兄の姿を咎めるものは誰もいない。

放課後、疲労困憊といった姿の双子を見つけた幼馴染は毎回こうなる年間行事を思った。
そして少し遠慮をして、控えめに呟いた。
「今日、一緒に帰らない?」
「珍しいねぇ桜華…」
「…いいですよ」
どこか遠い目をした双子、毎回バレンタインデーの度にこうなるのだから可哀想としか言えない。
「チョコとか…有り余ってるよね…」
「お前からの物なら何でも嬉し…いや!何でもない!今のは忘れてください!」
「口から本音がスベっちゃったね〜」
「ばっ、立花!」
赤い顔をした幼馴染と兄の姿を見て満足そうに立花は微笑む。
兄が本心を偽らないで良かったと。幼馴染がきちんとチョコレートを作ってきてくれたと。
ありきたりな行事かと思いがちだがもどかしい二人の距離が少し近付いた気がして立花はまた笑うのだった。