「立花〜3組に転校生来るんだって〜」
アルスがほわほわと教えてくれた。
残念だが私は昨日の時点で明那にそのことを聞いている。
なんならアルスにこのことを教えたであろうエビオも昨日その場にいた。
あいつ、何やら変なことを考えているなと思ったら案の定かぁ。
しかし私はアルスにこのことをどうこう言うつもりは無かった。
「そっか、馴染めるといいね〜あのクラスに」
癖のある…というか個性の塊でしかないあのクラスに入る転校生。
シンプルな興味と少しの憐憫しかその時はまだ抱いていなかった。
「…校内の案内ですか?」
「うちのクラスのメンバーじゃもう…」
「わかりましたぁ」
たまたま用事があって3組を訪れた私を3組担任の先生が呼び止めた。
事情は大体理解出来たし特に困ることもないから、なんて理由で了承した。
「こんにちは、黛立花です」
曰く双子の兄が言うには猫被りだと言うそれを本格的に使うことにした。
これで少しは大人しそうで深窓にいそうな女の子に近付けているだろうか。
なんだあれ、といった様子でこちらを見つめるエビオと明那の視線にはガン無視を決め込んでおいた。
「よろしくね、転校生くん」
目指すは桜華である。散々私をそそっかしいだの慌しいやら、色々言ってくれやがった双子の兄にこの姿を見せてやりたい気分だ。
しかしこれは先生からの頼み事、無視して独断専行すれば後がめんどくさそうだし神田先生に言いつけられたらそれこそ地獄だ。
そういえば次の授業は出なくていいらしい。
どうせ出たところで寝るかぼうっとするかしかなかったため嬉しい話である。
「なんでここにいるんですか、不破くん」
剥がれかけた猫ちゃんを急遽引っ張り出してもこのザマだ。
「3年はこの時期暇だからさ〜俺も一緒に行っていいでしょ?」
転校生に目を向けながらも度々スマホをチラつかせる湊先輩、そこには明那とのLINE。
ああこの人、完全に興味本位だ。
頷いた転校生を横目にこの人初対面でも来るなぁと半ば分かっていたことを考える。
完璧なアルカイックスマイルを浮かべながらもう一度猫を被りなおす。
「先生からの頼まれ事で仕方なくやってるんで…邪魔しないでくださいよ」
転校生にバレないように小声で湊先輩に伝える。
この先輩、基本ノリで生きてるからこうやってちゃんと注意しておかないと後で大変なことになるんだよね。
「わかってるって」
不安になりながらも私は転校生の腕を引いて先々を案内した。
こうでもしておかないと湊先輩に転校生が取られそうだったし。
「おーい黛兄!」
「…なんですか」
「見てみろよあれ!」
クラスメイトが休み時間に窓際に集結している。
何が原因だか分からなかったがまぁ僕には関係のないことだろうと思っていた。
すれ違った社が少し困り眉になっていたのが気がかりだった。
「お前の妹、やっぱりモテモテだなぁ!兄的には不服か?」
僕の双子の妹、立花…ポンコツで頓珍漢で大雑把で鈍感、おまけにゆるふわで気が利かない。
ズカズカと人の心に踏み込んできては掻き乱し、勝手に去っていく。
専らの僕の…いや、僕らの悩みの種。
社の表情の意図が不意に分かってしまって頭が痛くなる。
窓の外にはそんな噂の立花がバイト仲間の不破センパイと見知らぬ青年と共に歩いている。
そして立花は親密そうに見知らぬ青年の腕を引いている。
「不服どころの話じゃないですよ…」
そのうち立花達はどこかの建物に入っていったらしく姿が見えなくなった。
モヤモヤとした感情が僕の中に渦巻くのを感じる。
僕らしくない、そんなことを考えながらも気付けば教室を飛び出していた。