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「しーっ、バレちゃうでしょ?」
教室に比べても大分小さい個部屋。近頃噂の少女が俺に向かって微笑んで言った。
くるくるとこの部屋の鍵を指で弄びながら。
彼女の名前は嫌でも耳に入る。成績優秀者が多く集まることで有名な一組の中でもダントツに優秀だと謳われる黛の…双子の妹。
鈍感なことで有名で数多の男が彼女に告白しては玉砕していったという過去を持つ。
…所謂童貞キラーと呼ばれている少女だった。不本意ではあるが俺は今回そんな彼女のたまたまに選ばれてしまったらしい。
「静かにしててね」
蠱惑的な笑みを浮かべながら、彼女は口元に指を遣る。一つ一つの動きが鮮明に、艷やかに映る。
二人きりの教室で、彼女のその行動はあまりに迂闊なもので。
────周りの喧騒が、静まった。
グラウンドで走り込みをする運動部の声も世間話をしながら歩く教員の声も、友人と談笑に耽る人々の声も。
「あ…え?」
壁際に追い詰めてやれば途端に先程までの顔は剥がれ落ちる。
不安そうに俺を見つめる視線には困惑が滲む。
「…余裕無いんだわ、俺も」
ここぞとばかりに舞い込んだ好機だ、逃すなんて考えられない。
逃げられないように閉じ込めるよりこの手に帰ってこさせる。
あくまで支配権を持つのは俺だと認識させる。
突然のことに鯉のように口をぱくぱくさせて戸惑いを表現する彼女。
奪ったその唇は何より蕩けそうで甘い。
何とも言えない優越感と満たされた征服欲がごちゃまぜになってその過ちをさらに加速させようとする。
「と、扉っ…本当は開いてるからぁ…」
赤くなった顔を隠す小さな手を退かす。
誰に見られようがこの際だ、どうでもいい。
「いっそ見せつけるか?」
俺の言葉の意味が分かったのか、余計に赤くなった顔をして彼女は首を振る。
…かわいいなぁ。
首筋に噛み付く。多少痛くなったとしても、彼女の身体に残るように。
「あうっ…いったぁ…」
彼女の首筋には一際存在を主張するキスマーク。
白い肌の彼女にはそれがよく映えて、俺は少しにやけてしまう。
俺を恨めしげに見つめる少女は何も知らない。
いつだって純真無垢なまま、例えこんなことがあっても明日にはどうせケロッとしていることだろう。
「このことは内緒な?」
「〜〜っ!」
罠に引っかかってやるつもりなんてない。
そんな意思表示とともに彼女の耳元で呟いてやれば慣れない感覚だったのか、また赤面してしまった。
うずくまったままの彼女を置いて、先に部屋から出ていく。
柄にもなく熱くなった顔を近くの自販機で買った水で冷やした。
クールダウンは、当分できそうにない。