「僕を信じてくれ、絶対にこの手を離したりしない!」
何度も練習した言葉を口に出す、思っていた以上に感情が乗ったその言葉は誰に向かうことなく消えた。
私がアラジンの主要キャストに選ばれて監督としての任を終えたのは割と最近のことで。
刀也と桜華に色々と教えてもらってようやく形にはなってきているけど圧倒的に時間が足りない。
とにかくたくさん練習を積むしかないと一人で予約したレッスン室に篭もって今日も台本をひたすら読んでいた。
そう考えると監督だった頃とあまり変わらないように思われるかもしれないけどこれはこれで大分きつい。
監督だった時は全体に目を向けていたから分からなかったけど細かいミスに気付きづらい。
言い間違いやイントネーションの違いなど、大きな所は指摘して貰えても細かい感情の込め方や舞台上の動き方までは教えて貰えない。
流石に監督に1から10まですべてを聞くことなんて出来ない。
「無理だよぉ…」
しかし私は今回の演劇、ワザと声を低くしている。男の子の声に聞こえるように。
そのためたくさん練習してしまえば喉が壊れてしまうのだ。
本当に難儀である、たくさん練習したいのに出来ないなんてご飯をお預けされているのと同義だ。
「…後は台本読みだけしようかな」
基本的に借りた時間の半分しか実際に声を出して練習することがない。
なんと無駄なのか、なんて思ってもそうせざるを得ないのだからしょうがない。
それに私以外誰も主人公のキャラに合っていないのだ。
キャスティングに合わせたキャラにするかキャラに合わせたキャスティングにするか、結局揉めて後者になったのだ。
…私の替えは存在しない。変な言い方だけど。
いや、一人だけいるけどあいつは大変な立場だし頼むつもりはない。
多分頼めばやってくれるんだろうけど!…呆れながら。
それでも嫌だから絶対に頼まない。
まあ手は借りる、だって貸してくれるんだから。
「夢があるなぁ」
愛のために生きて、自由と可愛い彼女を手に入れてその彼女がお金持ちで…ってどんな世界なんだか。
本当に夢物語らしく、最後はハッピーエンド。
現実なんかじゃ考えられない、物語特有の辛い要素を排除した完璧なシナリオ。
「…馬鹿らし」
疲れが祟ったのか変なことばかり考えてしまう。
嫌になって振り払った考えに頭の中は未だごちゃごちゃしている。
こりゃ頑張りすぎたかぁ、なんて他人事みたく考えてレッスン室を閉める。
いつもなら心配してくれるあいつとも最近はめっきり顔を合わせなくなった。
あと少しの辛抱だって辛い気持ちに蓋をして、一人きりの帰り道を歩く。
知恵熱を出して倒れることさえ今の環境じゃ重荷になる。
休まずに、それでも頑張り続けなくちゃいけない。
すべてが終わったあとにならいくらでも倒れてやる、だからまだ。
「明日も頑張らなくちゃ」
呪いのように、期待がのしかかってくる。
あの頃と重なった現状に嫌気が差した。
まるで悪夢を見ているみたいだ。もしかしたら今もずっと魘され続けているのかも知れない。
夢なら早く醒めてくれればいいのに。