「今日も一緒に帰れないわ、ごめん〜」
最近は立て続けに文化祭の仕事やら練習やらで立花も多忙を極めているらしい。
こうして実際に話す時間を取れただけで凄いものだろう。
監督じゃなくなった今も別の劇の練習の為にひたすら練習三昧だと聞く。
一方的に話されたその内容もメッセージを飛ばしてくれれば一目で分かることなのだけどきっと彼女のことだ、また携帯を忘れてきたのではないか。
…そもそも持ってきているけど使い方が分からないとか?
可能性はそれこそ無限にある。しかし元凶の彼女がいない今となってはその答えは分からずじまいだ。
「立花らしいなぁ…」
最早慣れた幼馴染の突飛な行動に驚くことなくその片方に伝えに行く。
これはきっとそういう役割なんだと思うから。
たまたま近くのレッスン室を借りていた彼と話をする。
外で手短に話を済ませようとした私とは対照的に彼は私の手をぐいぐいと引っ張り、レッスン室の中へ入れてしまった。
「今日も立花が一緒に帰れないんだって」
引っ張られた私の身体が慣性の法則を以て彼の腕の中へ収まる。
そのまま私の項の辺りに顔を埋めたのか一気に重心が持っていかれる。
それでも倒れこまないのは一重に彼が私を強い力で抱きしめているからで…
「離れていかないよな…」
事実を確認するにはあまりに重みを持ちすぎた言葉が部屋に満ちる。
彼の表情は私に伏せられていて到底見えるはずがない。
それでもだいたい分かってしまうのはやっぱり過ごした時間が長すぎるからか、はたまた…
「大丈夫だよ、刀也くん…」
ぐちゃぐちゃになった頭の中が、冷静に装った僕の中身が外に溢れていく。
見せたくない所まで情け容赦なく、ただ弱音一つ零してしまえばあとは彼女の不思議な魔力に当てられたようにボロボロとなし崩し。
今日もまた彼女に当たり散らしてその証を刻みつける。
言葉なんかじゃ到底足りない。
幼馴染にあるまじき距離感を以てそれ以外全てに見せつける。
かぷり、と噛み付いた首筋。まるで吸血鬼が血を吸うその動作のように慣れた行為を彼女に行って。
そうして彼女が気付くことのないその傷を見て、僕はようやく満たされて笑うのだ。
支配欲か、庇護欲か、名前を付けることすら億劫になりそうなそれらを僕はようやく口にできる気がする。
「悪趣味だよね、刀也もさ」
ギラつくその瞳を縫い付けてそのまま強引に蹂躙する。
「同じだろ、僕らは双子なんだから」
「…それが、傲慢だって言ってんだよ」
それでも目の前で同じ姿形をした少女は僕の行動に異を唱えても止めることはない。
否、もう止まれない僕に嫌気が差しているのかもしれないが。
「今更逃げるなんて許さない」
囲った鳥籠の中、例え羽がもげてしまってもしっかり愛し尽くしてやるから。
恨めしげな目で僕を見る少女、在りし日のような無垢な瞳は憎悪に塗れている。
それでも少女がそこに留まっているという事実だけで僕は満たされる。
例えその少女から向けられる感情が殺意に変わろうと僕は永遠に愛して止まないだろう。
「桜華は逃げられるのかなぁ」
心配の目で彼女を考える少女に僕は確信を持って答える。
「逃さないから安心しろよ」
あと少しで手に入る、彼女のことを思い浮かべて微笑む。
「双子がいつまでも一緒なんてそんなことあり得ないんだよ」
冷酷な瞳で僕を見る少女には気付かなかった。
少女がまさに今寝首を掻こうとしていたなんて僕は知らない。
これは歪んだ愛情の行き着く先の物語。
くれぐれもこの先は皆様お気をつけて。