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「分かるだろここ」
トントンと教科書を叩いて立花を急かす。
刀也くんの教え方はとっても上手いんだけど…少しスパルタだ。
「…むー」
刀也くんがコツコツ努力するタイプ、一方立花は完全に感覚型。
「刀也嫌い!嫌といったら嫌!」
いつも立花に勉強を教えている兄さんは今日用事があるみたいで泣く泣く断っていた。
普段立花を甘やかしまくってる兄さんからしたら本当に申し訳ないことなんだろうけどこれは正直立花のせいだから…
「テスト前なんだからちゃんと勉強しなくちゃ駄目だよ、立花」
不貞腐れてぶーぶーと文句ばかり言う立花、この様子だと多分…
「じゃあやめればいいだろ、誰かに教えてもらえよ。僕じゃないもっと優しい奴に」
完璧に勘違いしている。
刀也くんは立花が他に優しく教えて貰える人がいると思いこんでる。
けど立花は全体的に今日は乗らない日なだけ。誰に教えてもらってもそればっかりは変わらない。
でも刀也くんにはその感覚が理解できない。
この双子は変なところで個性があるからこそこんな時に喧嘩して些細なことですれ違ってしまう。
「なんでそんなこと言うんだよ!もっと言い方ってものがあるだろ!」
苦手な所を勉強していたせいかイライラしていた立花が遂に刀也くんの胸倉を掴む。
そして何かを思い悩んだ後その手を放して立花は部屋から出ていってしまった。
「こんのわからず屋!」

緩やかに、私達の関係は終わりに近づいているのかも知れなくて、でもそれを理解したくなくて。
懸命にもがいて、足掻いてみても、私一人じゃどうにもできなくて。
ただ申し訳なさそうに笑う刀也くんの表情が、痛かった。
刀也くんだって言いたくて立花に厳しくしているわけじゃない。
それを言ったら立花だってそれを分かってる。
なのに、この双子はどうも距離感を測るのが苦手らしい。
またすれ違って、勝手に傷付いてる。

「こっち来て」
ずっと黙っていた桜華が僕を呼びつける。
謝らなくちゃと思った言葉が行く先なく燻って、僕の中でモヤモヤと渦を巻く。
「昔3人でよく遊んでた公園、分かるでしょ?」
桜華はただ僕を叱るでも慰めるでもなくただ背中を押す。
居場所を知ってるなら行って勝手に慰めればいいだろ、なんて心無い言葉が口から溢れる。
「私じゃ駄目なの」
僕たち双子を咎める癖して決して不遜しない。
桜華はいつだってそういうやつだった。
桜華がいなかったら僕たちは不仲だっただろうし今までどれだけ無理を強いたかも分からない。
「…絶対に、仲直りしてね」
ただ僕を送り出してくれるその表情は慈しみに溢れていて、聖母なんて裏で呼ばれる理由がよく分かった。
「当たり前だ、あいつは僕の妹なんだから」
あいつに会ったらなんて言おう。
とりあえずわからず屋はお前の方だって言ってやろう。
そうやって泣き虫で馬鹿な妹を迎えに行こう。
「酷いこと言ってごめんね」
頭を撫でて、叱ってやる。優しくなんて出来なくても、一緒にいてやるから。
「…帰るぞ」
僕も悪かったとそういえばなんだ、お互い様だねなんて。
少し遠い家までの道を二人並んで歩いて帰る。
いつも通り、二人で笑い合いながら。
こうして今日も歩いている、多分明日も、その先も。
…そうだったらいいなと願った。