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「立花遅いね…」
「そうですね、用事があるみたいですしもう少し待ちましょうか」
衣替えして半袖になっても暑いものは暑い。
クーラーの効いた教室で待っている私達は外の暑さを知らないけど今も外で活発に動き回っている立花は暑くてたまらないだろう。
熱中症も心配だしちゃんと水分を摂っているかも…そう考えたら色々と心配になってきて外の様子を確認しようとする私を刀也くんは止める。
刀也くんにはお見通しらしい。私が立花の様子を見に行こうとしたのも、変にたくさんのことを心配しているのも。
「あいつもそこまで馬鹿じゃないんだ、わざわざお前に心配掛けるようなことしないだろ」
その確信は圧倒的な信頼を持って紡がれる。
「まあ心配しすぎるのもたまにはいいか」
なんて、刀也くんは私を急かす。
やっぱり優しいなぁ、周りにはあまり浸透してないんだけど。
私だけがそれを知っているのは少しだけ嬉しい。

「二人とも教室で待っててくれれば良かったのに〜」
タオルで汗を吹きながら立花は私達に寄ってきてくれた。
立花は運動部の男子達に混ざりながら体育祭の設営を手伝っているみたいだった。
なんか異様な光景だなぁ…
傍からみれば紅一点かもしれないけど実際立花は百人力の活躍をしているらしい。
「もう少し時間掛かりそうなんだよね〜」
私達を無理やり教室に押し込めはしなくとも日陰には追いやって立花は満足そうにしている。
「どうぞごゆっくり〜」
隣の刀也くんを見ればまさかこいつ、みたいな目をしている。
本当に立花がやることは突飛すぎて想像ができないから困る。

密室(じゃないけど)男女、何も起きないはずがなく…なんてありきたりな展開。
私を待つという名目で背徳的なことの一つや二つあるのかな〜なんて考えていたら呑気に二人で様子を見に来られてしまった。
言っておくけど見世物じゃないんだよ!!
ていうか保護者感覚で顔を出しに来るんじゃない!
周りの運動部の奴らだってあ〜みたいな目をこっちに向けてくるな!
気持ちは痛むけど多少厳しく当たるしかあるまい…
二人のこれからを考えてこそ、私は大きな障害として立ちはだかるしかないの…
いわば今までずっと一緒にいたキャラの裏切り!もしくは闇落ち!
喪失感を共有した二人の仲はさらに親密になって…禁断の恋心に気がつく!
日陰に二人を押し込めて見世物にしてやる!
どうだ!いちゃいちゃしたくても周りからの視線が気になってしまうだろ!
「ありがとう立花、ここで待つ許可とってくれたんでしょ?」
「へ?」
お馴染みの捨て台詞を言って満足していた私の背後から桜華の言葉が届く。
目の前でわらわらしている運動部の奴らを見ればぐっ、なんて親指を立てられて…
「とっとと仕事終わらせて帰るぞ」
ジト目で私を見る刀也。…これ、もしかして私のほうが嵌められた?
策士策に溺れる…みたいなやつなのかなぁ。
腹いせにたくさん仕事してやった。私の有望さを見た運動部の連中は反省するがいい。
助っ人に入ってきた女子に仕事っぷりで負けるなんてさぞ屈辱的だろうね。
「覚えてろよ…絶対私のおかげでくっついたって言わせてやるんだ…」
二人に聞こえないような声で呟いた帰り道。
もどかしい二人に私が怒るのが先か、二人の恋が進展するのが先か。
我ながら面倒くさいことに手を貸していると思う。
とっととくっついてくれればどれだけ楽か…
文句を言いそうになるのを誤魔化して一歩踏み出す、決意に溢れた一歩を。
背中を押すことくらいやってあげなくもない。
それが私から二人に贈る餞別なのだから。