血が滲む、こんな姿絶対他の人には見せられない。
ハンカチなんて持ってない私はそのまま袖口で乱雑に拭う。
「ッてー…」
また心配掛ける。迷惑になる、あの二人の…負担になる。
「それだけは、絶対に、いや…」
失恋したからって手をあげてくるのは違うと思う。
それでも抵抗出来なかった私の問題なんだろうけど。
保健室の扉に手をかける。いつも無人だからいいや、なんて簡単に考えて。
どこまで傷付いた?どこを失った?どこが害された?
熱を帯びた瞳が嫌に焼き付く、午後の授業なんかには出る気さえしなかった。
このまま仮病を使って保健室のベッドで寝てしまおうかとさえ思えた。
ただ流れ落ちる血と一緒に一連の出来事も流れ落ちてしまえばいいとだけ思っていた。
「大丈夫ですか?」
電気もついていない保健室に、一人の…天使が立っていた。
「クレアせんせー…」
私はその人に見覚えがあった。
一年のときに何度も顔を合わせていた先生が、目の前に立っていた。
どうにも上手く表情を作れなくて袖口で口元を隠しながら申し訳なさそうに笑った。
「電気つけましょーよ…」
あたふたしだす先生の姿を横目に椅子に座る。
この人がいるとどうしても懺悔するみたいに思えてくるから不思議だ。
「今日はどうしたんですか?」
「少し傷の手当をしようと…」
目を伏せる、懺悔をするつもりも後悔だって残したくない。
「悪い癖ですよ」
先生はただ私のことを見つめていた。まるで一連のことを見ていたみたいに。
…いや、見ていたんだ。
「神は全てを見ていますから」
先生の瞳はどこまでも優しく、慈しみを持って私のことを見据えていた。
神なんていないと一瞥することも盲信することもできない私はそのまま目を逸らすことしか出来なかった。
そうでもしないとその“神”とやらにこの世の不条理に嘆いてしまいそうだったから。大人しく口を噤む。
私が何を考えているのかなんて気にしない様子で先生は手当をしてくれた。
静寂が満ちる保健室はそれこそ本物の懺悔室のようで。
そんな中で白衣を着た先生の姿は教会のシスターのよう。
「せんせーは、教会から来たんですよね」
首から下げた十字架もそう考えたら全て納得がいく。
「はい」
先生がそう言うのと処置が終わるのは同時だった。
綺麗に巻かれた包帯と絆創膏。
この姿を見られただけで終わりだななんて思い描いて。
今日はこのまま帰ってしまおうか。
「お母さんに、怒られちゃうな」
なんでお母さんの名前が出たのか、私自身もよく分からない。
それを言ったらあの二人の方がよっぽど…
ただ先生の姿には時折あの人を感じるから…
混濁する意識、ぼんやりと感じたのは貧血かな、なんて…我ながら不抜けたこと。
「神の御加護があらんことを」
強烈で抗い難い眠気の中で、彼女の声だけが鮮明に。
そのまま私は目を、閉じた。