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「人を待ってるだけなんだけどなぁ」
なんてぼんやりと彼女は笑っていた。
どうにも向けられている好意には微塵も気づいていないらしくふわふわとどこまでも他人事に笑みを浮かべる。
「ありがとねエビオ〜」
好きじゃなくても無理やり好きにさせるかのような、その気にさせそうな笑顔。
しかも本人は無自覚と来た。
まあ僕には本当に好きな人がいるから気にならないんだけど。
これはあいつも面倒臭がるわけだ。
「じゃあね」
僕の様子なんて気にも止めず彼女はただ一人を待ち続ける。
本当に彼女が恋をする人に、その感情を問いただすためか、はたまた教えてもらうためか。
どうしたって僕には関係がない。
後はあいつがどうにかすることなのだから僕が首を突っ込むのは無粋だ。

好きだ、愛してる、君のことをもっと知りたいなんてそんな言葉は必要ない。
ただ私が一緒にいて嬉しい人さえ隣にいればそれでいい、そう思っていたのに。
「デートしようよ」
「やだね」
少しだけ普通と違う反応が面白くて、楽しくて。そんなくだらない理由で隣の彼を覚えていた。
でも今となっては周りと違う反応をするのが好きじゃない。
誰かから向けられる視線なんてどうでもいい。
ただ好きだとか愛してるとか私もそんな言葉を言えたらいいな、なんて考えては独りごちる。
「好き、なのかなぁ」
曖昧な感情を定義なんて出来なくて、それでも気付けば目で追っている。
「アイス食べに行こうよ」
「奢んないからな」
まだ何も気づかないまま、彼の隣にいる。
こんなありふれた時間が何よりも愛おしくて一緒に遊ぶこの時間が永遠に続けばいいのになんて、柄にもなく考えた、そんな放課後。