「社これ、先生から」
クラスメイトの黛くん、文武両道で努力家で隠れ世話焼きで…私の自慢の幼馴染。
…学校では色々言われると面倒なのでという理由でお互い敬語で、他人行儀で話している。
もう一人の幼馴染である立花も私達を見て真似しようとしてたけどそもそも上手じゃなかったし立花とはどう頑張っても他人じゃないということでそのままの態度になった。
最初は立花に刀也くんが私を異性として意識してくれてるからわざわざ呼び方を変えてるんだ、なんて言われたけど多分そういう訳じゃない。
刀也くんは学年問わず様々な女子から告白やら呼び出しやらをされる…いわば有名人なのである。
私なんかのことをわざわざ考えてくれるような人だとも思えない。
「ありがとう黛くん」
彼の言葉に普通に応じれば私達はただのクラスメイト。
そんな反応が寂しい反面いつもは見ていない表情だから嬉しくもある。
立花に前こんなことを話したら馬鹿じゃないの?と言われたけどこれだけでも嬉しいんです。
普段見たことない表情程萌えるなんてあるあるだもん。
今日もまた、女子に呼び出しされる彼を見送る。
私に向けて申し訳なさそうに笑う刀也くん。
別にそんな顔されなくても刀也くんのせいじゃないなんてわかってるのに。
「アンタが刀也君を…!」
「桜華は私の幼馴染なんだけど、文句あんの?」
よく刀也くんを惑わせてるだとか言われるけど気にしてない。
立花は悪口を聞いたら総じて怒るけど不平不満なんて一つ止めたところで無限に出てくるだけだ。
「いいよ立花」
「っ…でも!」
「そうやって妹に媚売れば刀也君に助けてもらえるって思ってるんでしょ!」
勘違いは止まらない。そもそも私と刀也くんとじゃ釣り合わないと思うんだけど…
「そういう考え方をしてるから僕も認めないだけです、少しは自分で考えてみたらどうですか?」
嘲笑と怒りを込めた視線、これは怒ってるな…
立花が馬鹿にされたからだろうか、それとも自分が知らない所で引き合いに出されたからかも。
「おっそいんだよ!」
「しょうがないだろ!僕だって好きで放課後誘われてるわけじゃない!」
クラスメイトの黛くんから幼馴染の刀也くんになる。
いつもの柔らかな物腰からは考えられないくらい乱暴な物言い。
それでもこの姿の方が彼らしいと思えるのは私が長い間一緒に居過ぎて慣れてしまったからかも。
「じゃあまあ…帰るか」
「やっべ鞄忘れた!取ってくる!」
台風のような立花と静かな湖畔のような刀也くん、正反対な二人だけど私の大好きな二人。
「あー…また何か変なことがあったら絶対僕か立花に言えよ」
「うん、ありがとうね刀也くん」
立花はお転婆だなぁなんて考えながら優しい刀也くんの言葉に相槌をうつ。
昔からずっと私のことを刀也くんは気にかけてくれた。
こんな優しい人なら彼女も優しいんだろうなぁ…なんて考えて苦しくなった。
どうせ幼馴染、ずっと一緒に居られないなんて分かりきっているのに。
このままの時間が続いて、彼がどこにも行かなければいいのになんて…傲慢なことを考えてしまう。
私達はただのクラスメイトで、幼馴染。
それだけが超えてはいけない一線で、私のことを縛る鎖。
今日もまた、自分の気持ちを押し殺して笑う。
ただ二人が幸せなら私はそれでいいよなんて。
それも本当のことだけど、そこに私の幸せは入っていない。
「なに桜華、また変なこと考えてんの」
ギラついた翡翠色の瞳が私を捉える。
立花には昔から嘘なんてつけないなぁなんて笑ってみても実際追及されてしまうからバレた時点で私の負けだ。
「何でもないよ、じゃあ…帰ろっか」
不服そうな立花を何とか落ち着かせながら帰路を歩く。
…刀也くんは、私の幼馴染で…やっぱり立花がいるから私と一緒にいてくれるんだ。
それでも例え小さな枠組みだけでも彼の中で認識されているから嬉しくて。
「何隠してんだよ」
「え…?」
「そんなに…僕達には言えないのか?頼りないか?…僕は、」
立花と同じ色の瞳、それでも彼の翡翠は少し濡れていて。
いつの間にか立花はいなくなっている。
だめだなぁ、ぼんやりしすぎちゃったなんて反省しても戻れないところにいる。
「いつも相談しろなんて言わないし僕にだって用事だってある…でも、だからってお前がそんな顔していい理由にはならないだろ」
顔…私どんな顔してるのかな、今。
泣きそう?怒ってる?笑ってるのかも。
「少しは頼ってくれよ、一人で抱え込む前に」
「十分頼ってるよ二人には…本当にお世話になりっぱなしだもん」
彼の追及する視線を躱して、そのまま別れる。
ごめんね刀也くん。
「今日の桜華、何かおかしいね」
「…ああ」
不鮮明答えを立花に返せば今日は刀也もぽやぽやしてる!なんて怒り出す。
妹には桜華の悩みなんてお見通しなのだろうか。
立花が近くで話を聞いていたことさえ気付かなかったらしい桜華は僕から逃げるように家に帰ってしまった。
「励まし方がヘタクソ!全体的に駄目駄目!」
「全否定するな!僕の懸命な励ましを!」
そうして立花は呆れたように僕を見る。
分かるでしょ、とも言いたげな視線。
煩わしさは自然と感じられなかった。
「エクレアで許そう」
「…エクレア一個なら安いか」
桜華の隠し事の真意なんて僕にわかるはずもない。
それでも分かりたいんだよ、共有していたい。
傍にいてくれるお前にそんな顔はさせられない。
階段を駆け上がる、息切れなんてどうでも良かった。
驚いた顔の桜華が僕を見つめる。
「どうしたの刀也くん」
いつもと変わらない柔らかな瞳が僕を見た。
「話をしよう、僕とお前の…これからの話を」
理由はきっと、それだけでいい。
分かりきっていた幸せをもう一度きつく抱きしめて。
そうして僕達は少しだけ、大人になった。