「夕方になったら帰ってくるから大人しくしてろ」…なぁんて刀也は言ってたけど私は暇で暇でたまらなかった。
呆れる刀也の顔が浮かぶけれどこればっかりはしょうがない。
お兄ちゃんは施設に行ったしお父さんとお母さんは仕事、刀也は部活、妹達は桜華んちと一緒に旅行。
私だけが家に残っている。いわゆるお留守番役である。
桜華に一緒に行こう、なんて言われたけど旅行に行く気分でも無かったし溜まりきった夏休みの宿題をコツコツ進めることにした。
頻繁に、とは言わなくとも連絡はみんなから定期的に来るし何かあったらすぐに電話しろとも言われている。
でも家にばっかいるのは退屈だった。
刀也を見送ってから3時間、勉強もゲームも散々したから飽きてしまった。
「ちょっとだもん、いいよね」
クローゼットから適当に服を引っ張り出す。
制服じゃない服で出掛けるなんて随分久しぶりだ。
そんな他愛もないことを考えながら思い切って外に飛び出した。
気まぐれに麦わら帽子越しに見る世界も、ふわふわと揺れるワンピースの裾も、全てが久しぶりで、懐かしくて。
ふと、視界の端に珍しい彼の色が見えた気がして。
人違いだったらどうしようとかそういうことを考えずに追いかけてしまった。
「明那っ!」
呼び掛けて、その手を掴む。彼じゃない選択肢なんて無かった。
「っあ…え?立花?…なんで、こんなとこにいんの」
ただの気まぐれだよ、なんて言ってみれば明那は余計にしどろもどろになる。
「…暑いね〜」
どこかぼんやりとしている明那に声を掛ける。
先程から返ってくる答えはどこか的を射ていないから。
軽くからかうつもりで熱中症?なんて言ってみても反応はない。
ただぼんやりとどこか違うところを見つめている。
…どうしたのかな、そろそろ心配になってきた。
もしかして私が呼び止めちゃったから怒ってるとか?
「ちょっと…待って、ごめん…俺、余裕全然無くて…」
心配で彼を覗き込んでみればそこには顔を真っ赤にする明那の姿があって。
「そ、そっか〜何かあったら言ってね〜」
突然赤くなる自分の顔を押さえたくなる。
いかにも余裕あります、みたいな態度が出来たから良かったけど…駄目だ。
目を合わせられる気がしない。
さっきのあれで一気に恥ずかしくなった。
あんなの、反則だよ…
堪らず少し遠くを歩く。それでも、手を伸ばせば届く距離。
バクバクうるさい心臓の音、どうか彼には聞こえてませんように。
偶然だね、なんて彼女は笑う。
いたずらに笑うその顔に俺はまた惹かれた。
「ねー…明那?」
「ぁ、え…」
夏休みにたまたま会った彼女はいつもの制服姿とは違う装いで。
…正直な話とってもかわいい。
俺は今彼女からの問いにしどろもどろになりながら答えている。
本当はワンピースが清楚でかわいいとか、麦わら帽子を被ってるのがすごくいいとかもっと褒めたり一緒に笑ったりしたい。
だからこそかわいい彼女に情けなく動揺してしまうのも事実。
「熱中症〜?」
あらゆる言葉がそれっぽく聞こえる。
コロコロと笑う姿がやけに色っぽくて、艷やかで。
「きゅ…休憩でもする…?」
「ちょっ、今はホントに…ヤバいって…」
心配になったのか俺の顔を覗き込む立花、俺変な顔してないかな。
秀麗なその顔が気付けば鼻先にまで近づいていてまた驚きで変な声が出そうになる。
「何かあったら言ってね〜」
離れていく彼女、少しだけ名残惜しくなる。
でも今の俺には彼女を振り向かせる程の魅力はない、分かってる。
少し遠くを歩く彼女、何だかそれさえも目が離せない。
暑い夏の日、遠くで蝉が鳴く。
他愛ない会話さえ戸惑って、二人して笑う。
それでもいつか、この距離が友達以上になればいいなんて期待して。
少しぬるくなったサイダーを飲み干した。