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「分かってるんですよ、僕だって」
そう言って刀也くんは俺の方を見る。彼女と同じ色の瞳が何かを強く主張している。
「あいつがいつまでも僕達の傍にいる筈がない」
気付いていてももう止まれないのか、刀也くんは俺をじっと見つめる。
そうして何十秒、はたまた何分、それくらいの時間が経ったと錯覚しそうになった。
刀也くんはただ淡々とその事実を語った。
熱烈な感情を、彼女に向ける絶対の愛情を。
「ねえガクくん…あいつを連れてどこか遠くへ行ってくれませんか」
傾きすぎたベクトルがもう行き場をなくしてどれくらい経ったのだろうか。
刀也くんのその表情は悲痛そうに歪められていて。
「このままいたら僕達はきっとおかしくなる、今はまだ正常でいられても明日がどうなるかさえ分からない…こんな状態じゃまともになんて当然なれない」
ずっと昔から理解していたことを、彼は話した。
「俺が立花ちゃんに何するか分かんないっすよ」
「…別にお前ならいいよ、桜華の兄だし…僕も知ってる奴だから」
信頼に足る人物で良かったと思うと同時に吐き出された感情に一抹の不安を覚える。
刀也くんのそれは明らかに独占欲だとか愛だとかそういった諸々だろう。
…ヤンデレ、と言う奴なのではないだろうか。
「安心しろ、流石にそこまでは僕も落ちぶれてない」
俺の顔に出てたのか、もしくは刀也くんもそれを思いついたのか。
どちらにせよ刀也くんはそう答える。
「…お前になら、安心して預けられるんだよ…あいつも懐いてるし」
双子だからなのか、兄妹だからなのか。
やっぱり最初に心配が出てくる辺りが二人らしくて。
だからこそ非対称に抱いた感情に刀也くんは不快感を示しているんだろう。
でも、そんなの認めない。
俺はみんなより少し大人だから。
そんな変な理屈で、傲慢な考えで、握りつぶす。
「刀也くん、本当にいいのか?」
刀也くん一人に掛かっていい重圧じゃない。
勿論刀也くんが普通じゃないこともあの子が周りよりそういうことに疎すぎるのも俺は知っている。
それでも、ずっと近くで見てきたんだ。
俺一人の幸せよりこの先あの子達が笑う未来のほうが俺は何よりも嬉しい。
「そんなの…ッ」
言い淀んだ刀也くんの頭をそっと撫でてやる。
それだけで十分だった。
「話ならいつでも聞くぜ」
俯いたままの刀也くんはいつもに比べて全てが弱々しくてこれには桜華も優しくなるな、なんて勝手に考える。
「なんで…立花のこと奪えるチャンスだったのに」
「そんなことしても誰も喜ばないだろ?」
「……ガクくんらしい」
何か納得したように刀也くんは吐き捨てた。
じゃあこの話は終わりです、なんて少し涙声の刀也くんが隠すようにそう言って俺もそれ以上追及するのをやめた。
「美味しいシュークリームがあるんすよ、食べていきます?」
「貰います、仕方ない」
大人ぶる彼だけどまだまだ子供っぽくて。
それがなんだかすごく輝かしいものに見えて、俺は少しだけ刀也くんが羨ましくなった。