大学の講義帰り、たまたま家に寄る用事が出来た。
久しぶりに家に帰って灰くんの家にも顔を出す。
はいじゃあ手土産なんて渡したドーナツは兄妹が食べるからと言って仕舞われて。
灰くんもお兄ちゃんしてるんすねなんて茶化してみればガクくんほど俺は上手くできないけどと返ってきた。
俺よりも余程兄らしい彼はその頑張りが認識されなくても気にならないらしい。
刀也くんやリリちゃんなら気付いているかもしれないが、いや…あの子も気づいているのか?
とにかくこの兄弟はお互いが気遣いすぎな気がする。
灰くんは、一体何を考えているんだろう。
きっと俺なんかには分からないことを一人で考えてるだろうけど。
「一人暮らしって…何してんの?」
唐突に、しかし目的があるように灰くんは俺に問いかける。
特に何も変わらないなぁなんて呑気に俺が答えれば灰くんは納得したかのようになるほどねと呟いた。
「考えてるんすか?一人暮らし」
「…まあね」
黛家のリビングは閑散としている。いつもは賑やかだけど流石に平日の正午だ。
刀也くんたちは学校だしこの家はそもそも両親が不定期でいなくなる。今日はその日らしくキッチンには作り置きされたごはんが並べられていた。
「灰くんは…ご飯作ったりできるのか?」
気になっていた事を口にする。一人暮らしでは必ずしないといけないこと、それが自炊だ。
灰くんが料理を作るなんて想像できない俺はそのことを素直に聞いてしまった。
「…俺に出来ると思う?」
返ってきた反応はほぼほぼ予想通りで。
じゃあ彼女さんにでも作ってもらうのか…なんて考えてあることに気が付いた。
「同棲するために一人暮らしするんすか!」
「何でそうなるの…」
いやだって!なんて俺が詰め寄れば玄関が勢いよく開いた。
「ただいまぁ!」
「…ガクくん、来てたんですか」
同じ色をしているのに対照的な双子が帰ってきた。
「ガクくんが持ってきてくれたおやつあるから二人共…手、洗ってきて」
わあいと喜ぶ立花ちゃんと控えめにその頬を緩める刀也くん。
そしてそんな二人を見て柔らかな笑みを浮かべる灰くん。
閑散としたリビングにはいつしか賑やかさが戻っていて。
「あの二人には今日のこと内緒にしてて」
分かったっすよなんて投げやりに答えればジト目でこっちを見られる。
「お兄ちゃーん!」
「…兄さん」
「はいはい今いくよ」
面倒くさいことは絶対しないタイプの灰くんがここまで心配している時点でちゃんとお兄ちゃんっすよ。
もう一回家に顔だそうかななんてぼんやりと俺は思うのだった。