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クラスで文化祭の打ち上げをするから、みたいな話になって呼ばれたけどつまらなくなって留守番すればよかったなと後悔した頃だった。
「立花ー」
楽しそうに口笛を吹きながらメリーは私の机にやってきた。
最初は人見知りをして口数が少なかったけど慣れれば人懐っこくて可愛くてよくいたずらをしてくる。
それなりの仲だと思う。用事があったらそれなりに話して、少しやり取りをして。
「つまんないねー」
メリーは正直にそう言った。
私もつられて主役だったからって律儀に呼ばなくていいのになんて笑った。
コンパみたいになってる打ち上げの様子を見ながらぼんやりと考える。
あみゃみゃとヒムは来なくてメリーも途中から抜ける。
私も正直抜けたいけど…このどんちゃん騒ぎの中じゃ空気を壊しちゃうかも…
「じゃあ僕と一緒に抜け出す?」
「で、でもっ…」
メリーはただ笑っていた。そうして私も思い出した。
何度も練習したシナリオで、見慣れたセリフを聞いてやる。
メリーはいたずらっ子のように笑って、私に手を差し出す。
「後悔させないから…僕の所においで」
不覚にも紅くなりそうな顔を抑える。
まるで駆け落ちするかのように、私の足は軽かった。
私の手を引くメリーの手は優しく、後ろのどんちゃん騒ぎなんて気にならなかった。
「黛さん!」
嘘、やっぱり気になる。誰かの上げた声に一斉にこっちを向くクラスメイトたち。
大して仲良くない癖にこういう時だけ団結しないでほしい。
私が帰ったら主役が一人もいなくなるからなのか必死に引き止めようとする。
一気に囲まれた私達は外に出ることも出来ず元の場所に戻らされる。
そのままワラワラと周りに集まってくる人たち。
正直に言うと顔も名前も覚えてない。
メリーとは遠くに離されてしまったし前みたいに逃げたりなんてもう出来ないだろう。
「メリッサは強引だから…」
「大丈夫?黛さん」
ため息をつきたくなる話を右から左に聞き流す。
どうでもいい心配も媚び諂いも全てがウザったくて。
微笑みを浮かべることもできず不機嫌な態度が外に漏れる。
…あーあ、つまんないなぁ。
今になって家に携帯を置き忘れたことを思い出した。
何かあったら携帯に連絡してよなんて刀也に言って家を出た癖に置いてきたなんて本当に最悪だ。
「僕もう帰るね」
時計を見ればメリーの用事の時間だ。
ばいばい、と手を振れば不思議な顔をしたメリー。
そのまま人混みを掻き分けてメリーが私の手を掴んで引っ張る。
周りの人々を置き去りにしてメリーはそのまま進んでいく。
今度こそ周りの邪魔なんて入らなかった。
「このあと僕と立花、用事があってさ」
説明にもならない言葉をメリーが後ろに言いながらしっかりと手を繋ぐ。
「…もういいよメリー、ありがとう」
「一緒に行こうよ、どっか遠くに」
繋いだままの手に籠もる熱量。このまま腕を引かれ続けたらどうなるのかな。
そんな時、機械的な電話の音が鳴った。
私は携帯を持ってないし自然とメリーのだなって分かるけど…メリーは出ようとしない。
「出ていいよ電話」
「……やだ」
メリーの手から携帯を奪って無理やり電話に出る。
相手が誰か見るの忘れたななんて考えながら電話口に耳を充てる。
「おいメリッサ!」
「…何だヒムじゃん」
「は、なんで黛がいんだよ」
メリーに携帯を返そうと振り返ったその時初めてメリーの表情を見た。
気付けばメリーはヒムからの電話を切っていて。
「お願い」
何かを乞うようにメリーは私を見つめていた。
「このまま逃げよう、僕と一緒に」
全部嘘じゃないんだって初めて気づいた。 きっと舞台に上がったあの瞬間から恋に落ちていて、こうなる運命だったのかも知れない。
なんかそう考えたら本当に運命的で数奇な…変な感じ。
「いいよ」
一度離れたその手をメリーは強く、それでも優しく握った。
メリーは綺麗なミツバチ。その毒は甘くて、とっても痛い。
いつからだったか私はその針に刺されていて、毒が回っていて。
もうその毒なしでは生きていけない、可哀想な貴方の虜。
でもメリーと一緒なら宛もなく彷徨うのもまた楽しそうで。
物語の中だけだったアラジンの幸せが私達にもようやく理解出来た気がした。