66

刀也は朝練で朝起きた時には既に家に居なかった。
適当に準備して家を出たまでは良かったけど今日は色々あった。
朝から道案内を頼まれるわ捜し物の捜索を手伝わされるわ…いつもはこんなことなかったのに。
だからこそ弁当を家に忘れたことに気付いた頃には家に帰っても間に合わない時間になっていた。
「てことで刀也、お弁当分けて」
「本当に何やってんだよ…」
話によると刀也は私を起こしたらしいけど多分二度寝したよね。
全く起こされた覚えがないんだもん。
呆れながらも刀也はお弁当の中身を分けてくれる。優しいね。
まあ双子たるもの助け合いなので、こういうことは当然かなと思うけどね。
「刀也くんいいの?」
「しょうがないだろ、このまま立花に倒れられても僕が困る」
貰ったおかずを片っ端から食べていく。
やっぱりお母さんのご飯は美味しいなー。
「はい立花、私のお弁当あげるよ」
「んえ、桜華は?」
「お腹いっぱいになっちゃったし今日は調理実習の授業もあるから平気」
「…そっかぁ」
嘘ついてるなってのは一発で分かった。
でも悪い嘘でもなかったし桜華は優しいから大して追及しようとは思わなかった。
桜華んちのお弁当も美味しいな。
「ありがと二人共!」
持つべきものは友達なんて言うけど刀也と桜華も持つべきだと思うね。
私の知らないことなんでも知ってるし二人して万能だからね。
聞こえる予鈴の音に急いでクラスに戻る。
次の授業が体育じゃないことだけは知っている。
「ヒムー次の授業何だっけー」
「現代社会」
「ふーん」
「聞いた癖にその反応かよ…」
「あんがとー感謝してるー」
心地よい午後の日和、先生の声が睡眠導入に丁度いい。
校庭で体育をするのは…せんぱいのクラスかな。
なんか見覚えのある髪色が見えるし多分そうだろう。
眠気に抗えずうとうとする私を誰も止めることはなくそのまま眠りこむ。
結局授業終了の10分前にヒムが起こしてくれたけどこの時間は本当に仮眠の時間にしてほしい。
眠くて眠くて堪らない…あくびを一つすれば廊下から桜華が顔を出した。
「立花、これ作ったからあげるね」
「おいしそーじゃん…クッキー?」
「うん、さっき調理実習があるって言ったでしょ?それで作ったの」
桜華はお菓子作りが得意でよく作ってくれる。
お店で買ってきてくれるのもいいけど桜華手作りのも完成度がすごく高いから私はどっちも好きだ。
刀也は桜華が作ったほうがいいって言うけどお店のもそれはそれで美味しいから好きなんだよね。
貰ったクッキーを一つ食べればほんのり甘いバターの味がふんわり香った。
桜華らしい優しくて素朴な味だった。
ここで変にゴテゴテしてない辺りとってもポイントが高い。
一組が調理実習だったってことは刀也の元には私の比じゃない程のお菓子が集まっていそうだ。
「刀也には渡したの?」
「…渡してないよ」
逃げてきたのか、気まずくて。
多分刀也が要らん気遣いでお菓子とか要りませんから、とでも言ったんだろう。
…バカめ、そんな状態でお前に渡したやつ絶対変な目で見られるだろ。
それに他人からのお菓子は拒否する癖に桜華のだけ受け取るなんて桜華が他の女子に睨まれるに決まってるだろ。
守りたいのか酷な選択を強いるのかどっちだよ。
全く何やってんだか、呆れたいのは私の方だ。
「刀也ー」
「何だよ、今度は何を忘れたんだ」
「双子の兄の尻拭いに来てあげたんだけどー?」
「は?」
怪訝そうな顔をする刀也に耳打ちする。
流石に刀也は私の言っている内容を理解できない程のアホじゃない。
刀也は案の定それに気付き私に耳打ちし返してくる。
「お前、桜華から貰ってんだろ?」
「あげないよ!」
「昼は僕から取ったくせに?」
「同意の上だったじゃん!」
ハラハラと見守る一組の女子達…残念だが君達を擁護してやるつもりは無い。
桜華に敵意があるんなら徹底的に潰すだけだ。
「ちゃんと桜華から貰えよこのヘタレ!」
耳打ちでそう吐き捨てればすぐに真っ赤になり私から視線を逸らす刀也。
本当に分かりやすいことこの上ない。
もごもごと何かを言おうとする刀也を一瞥して私は自分のクラスに戻る。
途中で見つけた桜華に刀也の分、ちゃんと残しておくんだよと助言して。
帰り道、刀也から惚れ話(本人自覚なし)を聞かされる。
知らない人の話より桜華と刀也の程よい距離のもどかしい話の方が聞いていて微笑ましいし楽しいから別にいい。
まあこの二人は微笑ましいというよりもはやくくっつけ、なんて茶々入れたくなるけど。
「そういやクッキーは?」
「…桜華がくれた」
「大切にしなよ」
「当たり前だろ」
明日にでもこの二人が結婚したりしないかなー。
この雰囲気はもう付き合って九年くらいの空気感だと思うんだけど。
この焦れ焦れカップルはいつも私の期待の斜め45°上に行く。
毎回何でそれで付き合わないんだよ!なんてつっこみたくなることだらけ。
まあそれでも刀也が誰より桜華を大切に思ってることも桜華が誰より刀也に恋焦がれてることもよく分かるんだけど。
…本当に分かりやすい二人だこと。
たった一つだけ入っていた歪な形のハート型クッキーを食べる。
咀嚼する度にホロホロと崩れる欠片とまろやかな甘み。
私達もいつかこのクッキーみたいに溶けて無くなるのかな。
その時私は何を思うのかな。
…ふと考えて、やめた。
それを考えるのはその時が来たらでいい。
今はまだこのありふれた日常に溺れていたい。
それが例えこの永遠が終わってしまう未来でも。
その方がきっと、幸せでいられるから。